あきらめられない夢に

会社から歩いて二・三分したところの喫茶店『アリエス』に僕たちは入った。

チェーン店が頻繁に出回る昨今において、今時珍しい個人経営の喫茶店は僕たちがいつものように通い続けた場所だった。


「いつもの二つね」


ドアを閉めるのと同時にマスターが顔はしかめっ面で、それでも口元は緩んでいるいつもの表情で作業し始めた。

先輩は何も言わずにそのまま一番奥の席へと座り、僕はそれにつられるようにして向かいの席に座った。

先輩が煙草に火を点け、そのままライターをこちらに向けてきたが、今の僕には煙草を吸う気にはなれず拒否した。


「どうしてだ?

確かに二つ立て続けにミスはしたが、それほど大きなミスでもないだろう。

あんなのはいつだってお前なら取り返せるじゃないか」


一服し、煙を吐き出し終えると、先輩は背もたれから背中を離して前のめりになって鼻息を荒くした。



体育大学出身特有の上下関係と挨拶には厳しい先輩で、入社したときは苦手だと思っていた。

しかし、体育会系でも何でもない全く違う人種ともいえる僕を先輩は気に入ってくれたのだ。

理由を聞いても「何となく」としか答えてくれなかったが、仕事のことからプライベートまで先輩は何でも僕に気に掛けてくれ、その度に相談に乗ってくれた。


「はい、いつもの」


マスターは先程と同じ表情をしながら、テーブルに『いつもの』を二つ置いた。