「まあ、作家名の由来はそんなところですよ。

宮ノ沢慎二から『慎』という字を抜かして、『二』を漢字ではなくカタカナの『ニ』にして並べ替えて『宮沢ニノ』が誕生したんです」


その言葉を聞いて自分の考えが何となくでも当たっているように思えたのか、申し訳なさそうに下を向いていた彼女の表情が一瞬にして明るくなった。


「そうでしょ、やっぱりそうだと思ったのよ」


「でも、それだけで分かるなんて凄いですね」


「それだけじゃないの。

宮沢ニノの作品には三重がたびたび出てきていたから」


三重をモデルにしたり、思いながら書いたことはあっても、僕は自分の作品には三重という地名を出したことがない。

それだけに今の彼女の言葉は、僕を驚かせるに十分な言葉だった。


「そんなのすぐに分かるわよ。

作品を読みながら凄く頭の中でイメージがしやすくて『ああ、これってあそこのことだよね』って、不思議とどこか懐かしくなりながらページを進めていたもの」


携帯小説の感想を書かれたことは何度もあるけれど、面と向かって作品の感想を言われたのは初めてだった。

同じ言葉でも、書かれることよりも口にして伝えられることがこんなにも照れくさいということを初めて知った。

そして、僕の作品を読んでいてくれている人が目の前にいるという事実が何よりも嬉しかった。


「そんな、僕には勿体ない言葉です・・・」


照れくささを悟られたくはないと思っていても、きっと彼女にはそのことが伝わってしまっているだろう。

この感情を隠しきれないくらい僕は傍から見れば舞い上がってしまっているに違いない。

何か上手く誤魔化せるような、そんな他の話題を頭の中で急速に考えた。