お互いが後始末を終え、トラックを所定の位置へと戻す。

時計を見ると、まだ定時には少しばかり時間が空いていた。

僕たちはプレハブ小屋に見えないようにトラックの陰に隠れて、倉庫の壁へと寄り掛かって腰を下ろした。


「不思議だよな」


秋空を眺める彼女の表情は出会ったときとは違っていて、柔らかく、優しくなろうとしていた。

その横顔につられて僕も空を見上げると、彼女は目を閉じて、小さく笑った。


「俺にとってこれが最初の公演。

それなのに、そんな気がしないんだ。

ずっと、みんなと一緒にやってきたような。

本当に不思議な劇団だよ」


それは僕も同じだった。



初めてのことばかりだった。



しかし、それはいつも通りのような感覚で、自然にみんなに意見を出したり、出されたりしていた。



きっと、それは長い年月をかけて団長が築き上げてきたものであり、それをつぐみさんが受け継いでいるからこそのものなのだろう。


「沢良木、演技が凄く上手いよ。

お世辞とかじゃない、本当に上手いと思う」


「ありがと。

そんな風に言われると、恥ずかしくなっちまうな」


ポニーテールを右手で掻きながら、彼女にしては珍しく嬉しさを隠さずにはにかんだ笑顔を見せた。


「きっと、俺に合ってたんだと思う」


両手を頭の後ろで組み、腰を更に地面のほうへと落としていく。

僕はそのままの姿勢で、彼女を見下ろすような形になった。