今日の仕事はそわそわしていて、ミスはしていないものの仕事内容としては散々に近いものだった。

こんな日には沢良木に耳鳴りが起こるくらい怒鳴られるのだが、今日に限っていえば彼女も僕と同じだったようだ。



倉庫の中に入り、目が合うと、お互いが苦笑いを浮かべる始末。



しかし、それも仕方のないことだろう。



明日、僕たちにとって最初の舞台であり、松阪○○○(さんじゅうまる)劇団にとっての最終公演なのだから。


「お前もか」


隣で配送の後始末を始めると、手を止めずにこちらに話し掛けてきた。

もちろん、なんのことかなどと聞くのは愚問だろう。


「しょうがないだろ」


彼女は「へっ」と言いながらも、その表情は嬉しそうににやけていた。



いきなりだったにも関わらず、劇団に入ってから彼女は一度も稽古を休むことがなかった。

それどころか、稽古が無い日にもつぐみさんや団長に教えを請いに松阪へ行ったことは一度や二度だけではなかった。

正直、ここまでのめり込むとは思っていなかった。

けれども、何事にも中途半端を嫌っている彼女を思えば、当然のことと言えば当然なのかもしれない。

それだけに、彼女にとって明日は楽しみで仕方がないのだろう。