あきらめられない夢に

唇が離れたのは、彼女の携帯電話の着信音が鳴り響いたときだった。


「あっ、ごめんね」


彼女は鞄に入っている携帯電話を取り出し、キッチンへと移動してその着信を取った。



それとほぼ同時に、僕の携帯電話も鳴り響いた。


「なんだ、沢良木か」


「なんだはねえだろ、失礼な」


二人が通話していると会話が交じってしまうので、僕はベランダに出て沢良木からの電話を取る。

タイミングの悪い電話だったが、沢良木から電話が来ること自体が珍しいので出ることにしたのだ。


「どうしたんだ、お前が電話してくるなんて珍しいじゃないか」


「いや、ちょっと舞台のことで確認したいことがあって・・・」


どうやら、つぐみさんの予想は嫌な方向で的中しそうになっていた。


「あのさ・・・」


「宮ノ沢くんっ」


キッチンからつぐみさんの声が響き渡る。

その大きさに思わず身を竦め、ゆっくりと振り返りキッチンにいるつぐみさんを見た。

小刻みに手が震え、顔からは血の気が引いていた。


「まくりちゃんが・・・

まくりちゃんがレース中の転覆で大怪我して、病院に搬送されたって」


僕の顔からも血の気が引いていくのが分かった。