あきらめられない夢に

立ち上がり、隣の部屋の机の上からルーズリーフを取り、彼女の前に置いた。


「これって、もしかして新作の」


構成メモだ。



先週、春から執筆していた作品が完結し、三日前から次の作品に取り掛かっていたのだ。


「あんまり見たら、楽しみがなくなるよ」


目を輝かせて食い入るようにメモを見つめる彼女に声を掛けるが、その声は届いている様子は一切無かった。

こうなると、彼女がこちらに戻ってくるのに結構な時間が掛かるため、僕は一旦ベランダに出て一服することにした。



昼間とは違い、外の空気は肌寒く感じ、秋の夜長という代名詞が当てはまる時期になってきていた。

満月に少し満たない月を眺め、吸い込んだ煙を深く吐き出す。


「相変わらずね」


部屋に戻ると、ルーズリーフを眺めながら彼女は口に手を当ててくすくすと笑っていた。


「最初は綺麗な字で書いているのに、途中からはチャラ書きになっている」


自分でも分かっていたことなのだが、人から言われると恥ずかしくなり慌てて彼女の手からルーズリーフを奪い取ろうとする。

しかし、彼女はそれを察したのか、僕から遠ざけてしまった。


「まだ、見ている途中なんだから駄目」


僕は顔を赤らめて、正座のような格好で隣に座る。



しばらく、そのままの格好でビールをちびちびと飲みながら、彼女が読み終わるのを待った。