あきらめられない夢に

「あっ、その沢良木なんだけど」


二缶目のビールを開けたとき、春先に沢良木に相談されたことを僕は何一つ協力していないことに今になって気付いた。


「実はあいつに女らしくなりたいって相談されて・・・

でも、俺は男だからそういうこと分からなくて。

緊張をほぐす意味も込めて、そういうことも面倒見てもらっていいかな」


彼女は「もう」と呟きながらも、満更でもない表情をしていた。

それは彼女が僕にとって一番女性らしいということを認めていて、彼女もきっとそれに気付いているからだろう。


（ありがと）


僕は声には出さず、心の中で彼女にお礼をした。


「そういえば、あなたは最近どうなの？」


「えっ」


突然、話題が僕のことに触れたので少しばかり呆気に取られる。


「お、俺？」


肩に回していた手を思わず離してしまい、自分を指差す。

彼女はそれまでの表情とは変わって、満面の笑みでこちらを見ていた。


（こりゃ、参ったね）


仕事のことならば「仕事はどうなの？」と聞いてくるため、彼女がこの質問をするときは決まって携帯小説のことを聞いている。