あきらめられない夢に

今の彼女には、どの言葉を掛けても気休め程度にしかならないだろう。



きっと明日には決定をしっかりと受け止め、それに合わせる彼女の姿があるのだから、今日くらいはこのままでも良いのはないか。



自分にとって都合の良いとも思える考えで解決し、撫でていた手を彼女の肩へと回し、お互いの頬をくっつける。

この行動が思いのほか彼女を落ち着かせたようで、目を閉じて大きく深呼吸をした。


「ありがと」


落ち着いた彼女は、十一月の最初の土日に延期になった公演までをどうしていくかを語り始めた。



告知した先への謝罪と、新しい日程の再告知。



一ヶ月近くも延期になったことで、新しいシーンを追加するのか、このままで精度を高めるための稽古をするのか。



追加の稽古の日程。



そして、何よりも役者としての自分のモチベーション。


「あとは沢良木さんね。

今回が初めての彼女にとっては稽古の数が増えてしっかり備えられるようになった反面、不安や緊張を抱える日も増えたことになるわ。

彼女はああいう性格だから私たちの前ではそういう素振りは見せないけど、今月に入ってからは少し見え隠れしていたから心配ね。

一ヶ月近く延びて、今の良い状態の演技を見失わなければいいけど」


稽古の数が増えて良かったと単純に思っていたが、彼女のその言葉でまた一つ舞台の奥深さを知った。

そして、延期という決定に苛立った彼女の気持ちも少しだけだが分かった気がした。