あれから一週間が過ぎた。

あの日、松坂○○○劇団の公演を見て、興味の無かった僕の心は舞台に奪われた。

役者たちの予想以上の演技力と、団長が作ったというストーリーに僕は魅了された。

なかでも、劇団の脚本を今まで全て担当していたということもあり、団長が考えたストーリーは目を見張るものがあった。

僕にもああいったストーリーが作れれば・・・

そう考えると、またため息が出てしまう。


「九宝・・・つぐみさんか」


何度も開き、皺だらけになっているパンフレットをもう一度開く。

上越の言っていた通り、九宝さんはこの公演では主演を務めていた。

その演技力は予想以上の演技力をみせた劇団の中でも群を抜いていて、この作品が初めての主演では決してないということが初見の僕でもすぐに分かった。


「九宝・・・つぐみ」


僕は何かに取り憑かれたかのようにその名前を口ずさみ、ため息とともに空気へと変えていった。

公演の前に一度だけ会った九宝さんはTシャツ姿だったが、大人びた雰囲気を持っていて、とても落ち着きのある女性だった。

その姿はどこか寂しそうにも見えたが、それが大人の女性の魅力というものだろうか。

そして、今の僕に纏わりつくもの全てを包みこんでくるようなあの手の感触と温かさが、今でもこの手に残っているようだった。