あきらめられない夢に

「つぐみさんの舞台、やっぱり凄いや」


そう言いながら、視線の先にあるホットコーヒーのカップを取り口へと移す。



『アリエス』の出すものと違って苦味が少なく、甘みが口に広がっていった。

もっとも豆が違うのだから、味が違って当たり前なのだが。


「私が主演女優って言い続ける理由も分かるでしょ」


僕たちは舞台の前に食事を済ませていたので、料理を頼まずにホットコーヒーを注文した。

上越はそれに加えてかぼちゃのチーズケーキを注文し、それにフォークを入れながら興奮している。

つぐみさんは食事がまだということで、この店のオススメという茸とほうれん草のクリームパスタを注文して、まさに今届いたところだ。


「そうか。宮ノ沢くんと出会ったのは秋だから、去年の秋公演を観たことがあるのね」


時計回りにパスタが盛られている皿をゆっくりと半回転させ、自分のところへと寄せながらこちらを見た。


「そうです。ちょうど夏に前の会社を辞めて九月にこっちに帰ってきたから、今回が二回目です」


「ふうん」と鼻を鳴らし、パスタを口へと移動させる。

口に入れたときのほんの一瞬だけ見せた幸せそうな表情、それを見逃さなかった僕は幸運だったに違いないとテーブルの下で右手を強く握り締めた。