「実は上と話して、お前を会社に戻すようにと話しているんだ」


信じられない言葉だった。

前の会社の仕事は別として、もう一度先輩と一緒に仕事ができるかもしれないというだけで僕は叫びたいくらいの気持ちだった。

その話は一体どれくらい進んでいて、どれくらい現実味を帯びているのだろう。

こちらから聞きたいが、それでは態度があからさま過ぎて失礼ではないか。



しばらく二人の間に沈黙が訪れ、何かを探り合っているような空気が流れた。



僕ももう一度先輩と一緒に仕事がしたいです



と口にしようとした瞬間だった。



今の会社のドライバー、主任に沢良木、みんなが目の前で僕を迎え入れてくれた光景が浮かんだ。


「宮ノ沢、戻って来ないか」


最早、その言葉は僕の耳に入って来なかった。


「先輩、すみません」


「・・・」


「俺、先輩がそういうことしてくれて凄く嬉しいです。

だけど・・・俺、こっちに仲間ができたんです。

先輩と一緒に仕事をしたいという気持ちは、今もずっと胸の中にあります。

だけど、その人たちを裏切ることはできません。

今日の電話は、きっとそのことを伝えるためだったんだと思います」


目の前に先輩がいるわけではない。



それでも、僕は深々と頭を下げた。



それがせめてもの先輩への礼儀だと思ったのだ。