Strong in the wind!

少し自信を無くした私は、再び眼鏡をかけて秦野君に問いかけた。


「秦野君の文学部はどうですか?」


道端の小石を蹴りながら、秦野君は「まぁまぁ」と答えた。


「週に一冊、議論する本を決めて討論会するんだけどね。ページ数が多かったりすると、結構大変かな」

「好きな作家さんなら良いけど、苦手な作家さんなら討論したくないですよね」

「そうそう。僕は今流行の若手って、あんまり好きじゃないんだよね。誰が好きかと言えば、太宰の作風と生き方が好きかな。特に『女生徒』なんか、男が書いたなんて思えない文章だし」


太宰…って、あの太宰治だよね?走れメロスとか、怠惰的なあの人だよね?

女と一緒に心中なさった文豪だよね?

しかも毎回別の女とか、どんだけ女が好きなんだよって話なんですけど。



「………意外です。太宰治って、良いイメージ無いんで……。秦野君がそういう人に憧れるとか、意外過ぎます」

「こう見えても、俺はわりと淡白だと思うよ。頑張らないし、ね」

「頑張らないって、どういう事ですか?」

「ん、色々と。駄目だと思ったら無理には押さないタイプ」

「そうですか」


でもその言葉を言った秦野君の表情は、とても淡白そうには見えない。



一瞬だけど、赤間君を見て目が光ったように思えたのだけど…。

気のせいかな?