「目茶苦茶バクバクしてます。紫野さんの髪の毛を撫でる充さん、充さんの背中に腕を回す紫野さん……」
「妄想を止めろ変態」


苦笑した紫野さんの顔が遠ざかっていく……。


「つまり、さ。紗凪ちゃんは今、僕を《男》として意識した?つまり、異性として」

「……男、ですか?」


さっき紫野さんが近付いた時は……。


やっぱり『紫野さんの相手は充さんだよね』って視線でしか見てない。

つーか、そういう風にしか考えられない。


「うーん…。私を対象にした異性、とは考えられないです。紫野さんのお相手は充さんだし」

「じゃ、さ。仮定として、僕達が二人ともノーマルだったとして、それであれだけ近付いたら、紗凪ちゃんはドキドキしないの?」


二人ともノーマルだったら?




「……全く興味無いですね。むしろリア充爆」

「お前本当にヤバイぞ」


コミックスから目を離した充さんが、眉をひそめてそう言った。


「ヤバイって、何がですか?」

「うーん…。寮生を誘惑して欲しいって言っといて、こう言うのもなんだけどね。紗凪ちゃんには警戒心が無さすぎる…って思うんだ。だから、自分の体は自分で守りなよ、って事。ここは男子寮なんだし、餓えた狼達がゴロゴロいるんだから、気を許したら食べられるよ?部屋に寮生なんか入れたら駄目じゃん」

「あ。他の人達は入れません。ノーマルの人なんかもっての他です」


私の力説を聞いた二人が、大きくため息をついた。