肩を叩いたのは、くすくす笑った一さんでした。


「紗凪ちゃんの肩にね、蜘蛛がいたから払い除けただけ」


「ひっ……!!!!」


蜘蛛!? 蜘蛛っ!!


「ふぎぃやあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!」


蜘蛛って名前を聞いただけでも身の毛がよだつ!!


蜘蛛なんて伏せ字でしか名前を呼べないぐらい、私は蜘○が大の苦手なんだ!


そんな○蛛が私の体に触ってたかと思うとゾクッとして、ついつい身近にいた誰かにしがみついた。



「……お前……。やっぱ、あの件から蜘蛛が大嫌いになってんな?」


涙目でハッと上を見上げれば、顔を赤らめた赤間君と目が合ってしまい、どうすればいいか判断に困る。


なんで抱き付く相手を間違えてんだよ私!


この際だから、どうせなら充さんか紫野さんに抱き付けば良かったのに!



あれ?って言うか、赤間君『あの件から』って言った?……あれ?


赤間君は、私が蜘○が嫌いになったきっかけ、まさか知ってんの?



「……紗凪さ、幼稚園の園庭の隅っこに行って遊んでた時、フェンスにかかった蜘蛛の巣に顔を突っ込んだだろ?そしたらでっかい女郎蜘蛛が顔に被さってきて……」

「言うぅなあぁ!!」


慌てて赤間君の口を両手で塞いだ。


そんな事まで覚えてたのか!? ただの筋肉馬鹿じゃないのかよ!?


「……へぇ。紗凪ちゃんは、蜘蛛が苦手なんだね」


真っ青になった私の横を、秦野君が意味ありげに笑みを湛えて通りすぎて行った。



ああ私の馬鹿。


他人に弱点漏らすなんて失態なんでやっちゃったんだよ。


ぶはっと息を手に吹き掛けられて、赤間君の存在を思い出した。あ、両手で口を塞いでたんだっけ。


「おまっ!! 窒息するかと思った!」

「あ、ごめ」


誠意なく赤間君には答えて、私は急いでその場から逃げ出した。


だってまた○蛛が体にくっついたらやだし!


赤間君は私の歩調に合わせてびったりくっついてくる。



そんな私達の様子を、一さんが笑いながら眺めて通り過ぎて行く。


待って下さい一さん!置いてかないでえぇぇ!!