夜の春の海は、真っ暗でどこかに魔物が潜んでいそうな気がした。
人影は見当たらない。
コンクリート塀の向こうに並ぶ外灯の明かりと、ぼんやりとした月光を頼りに砂浜を2人で歩き出した。
凪いでいる、と思ったのに、
波打ち際では白い波しぶきが暴れていて、意外に波があると分かる。
「なんだか海に吸い込まれそう……」
水平線の境界も分からない漆黒の海は、どこか異次元の世界へと繋がっているような気がして、真彩は恐ろしくなった。
神秘的な半月の白い光を浴びているうちに、その光にもっと近付きたい衝動に駆られる。
砂浜にコーチのミニボストンをぽとりと落とし、闇を抱くように両手を広げてみた。
「やっべえ、スニーカーに砂入りまくり!」
司が真彩のそばに立った。
「大変。私はブーツだから、大丈夫!」
真彩はひょい、と片足を上げてみせた。
「可愛いよ。お洒落だね。真彩はいくつになっても、ママになっても」