点々と白い、パンの様にふわふわの形をした雲がある晴れた昼下がり。
「ねぇねぇ聞いた?」
散々の愚痴で彼氏にフラれたことは消化されたのか、国塚の明るい声が屋上に響いていた。
「あの櫛田がぶちって消えたんだって」
「ぶちるって……会社を無断で辞めたってこと?」
中山は少々驚いた顔をしていた。
悪評ばかりが轟いてしまっていた櫛田であったが会社を休んだことがないのは誰もが知っていたからだ。
その隣で四日前に櫛田と共にいた佐竹は普段と変わらぬ表情で弁当を食べていた。
「でもこれで由奈はいびられずに済むから良かったよね。
ほんと櫛田うざかったし」
「うん、でも……やっぱり中身は綺麗だったよ」
佐竹は二人に聞こえない程の小さな声で、そう呟いた。
急な突風に茶色の髪が吹き上げられた。
「ん?由奈なんか首のとこ怪我した?」
中山がそう言って佐竹の左の髪をかきあげる。
「なにこれ?引っ掻き傷じゃん。
痛そーっ」
三センチ程の長さの爪で掻いたような傷。
一瞬だけ佐竹ははっとしたような表情をしたが、すぐに平静を取り戻した。
「昨日、なんかむずむずして掻いちゃったんだよね。
見た目ほど痛くないけど、目立つ?」
自分で何度も髪をかきあげてその傷を見せる。
「けっこう目立ってるよ。
由奈掻きすぎ!」
「あはは、どんだけ掻いたんだよー」
二人はなんの疑問もなく佐竹の言葉を聞き入れていた。
「そっか、そんなにもか……」
取り出したタコさんウインナーが地面に小さな音をたてて落ちる。
拾い上げた時に砂がついて、何度も何度も二人に見えないようにその手を拭っていた。
「」



