「なあ、おい。
いるなら返事をしろよ」
虚しいほどに裏返る櫛田の声だけが響いている。
「・・・?」
その時、ふいに何かが風を連続的に切り続ける音が聞こえ始めた。
得体の知れない音に櫛田の不安は急速に高まっていく。
「おい!なんだよ!!
出てこいよクソアマ!!」
瞬間的に高まる緊張に櫛田の理性は崩壊寸前であった。
握り締めた拳から汗が滴る。
急に聞こえ始めた音がだんだんと近づいてくる。
近づくにつれてそれが、ある場所を支点にして何かを振り回す音であると気づく。
「そこだな?そこにいるんだよな!?
俺もそこの棚のやつみてえに殺して内蔵ぶちまけるつもりなんだろ!?」
櫛田の怒鳴り声にも一切の返答はない。
ただゆっくりと着実になにかが近づいてくる。
櫛田の足が小刻みに震える。
必死の形相も闇に包まれ相手を威嚇することも叶わない。
「そうはさせねえよ、その前に俺がお前を殺してやるよ!!
うわああああああっ!!」
音を目掛けて両手を前に突き出して走り出す櫛田。
加減を捨てた成人男性の突進。
もし目の前にいるのが佐竹であるならばぶつかっただけでも吹き飛ばされて怪我は必至。
今の櫛田の精神状態ならそのまま佐竹の息が途切れるまで暴行を加えることだって考えられる。
恐怖はその仮面を剥ぎ取り殺意が頭を支配していた。
もし手に何かが触れたらそれを殺す。ただそれだけを脳が命じるように櫛田は頭の中で延々と「殺す」と唱えていた。
「うわああああ!死ねええっ」
何か硬質な物体が櫛田の眉間を激しく殴打した。
鈍い音と共に櫛田の叫び声がピタリと途切れて、力なく床に倒れる音が響いた。
走ってい勢いのままで激しく倒れこんだ櫛田は顔面を思い切り打ち付けたが、直前の殴打で気を失っていたのだろう、痛がることも声を上げることもなく身体から力が抜けていった。
「あーあ、予定より早くなっちゃった。
私ねあなたみたいな性根の腐った人間が大好きよ」
再び淡い証明が点く。
気絶した櫛田を見下ろす人物の手には暗闇モードにされたビデオカメラと白いひも付きの袋が握られていた。
「皆は知らないの。そういう人たちの中身ってすごく綺麗なこと。
人は外見じゃないのってママも教えてくれた。あんたみたいな下衆の汚い腹をかっさばいて臭い血の海をかき分けた先に、宝石みたいに綺麗な中身(内蔵)が眠っているのよ」
持っていた袋を離すと、大きな音を立てながら地面に沈んだ。
その衝撃で開いた袋から握りこぶしより少し小さい石が溢れ出る。
倒れる男に近づき、無理矢理に首根っこを掴んでずりずりと引きずる。
扉がゆっくりと開き、廊下へと引きずりながら消えていく。
「ねえ、あなたの中身は・・・
どんな色?」



