一樹の死亡が法的に認定されて二日後の土曜日。

菜月と想次郎そして叔母は、二人の父親と母親の眠る墓地を訪れていた。

目的は一樹の死亡を報告することだったので、三人は喪服に身を包んでいる。

叔母は着なれてしまった喪服でスタスタと歩き、二人は着なれない物悲しい格好に歩調までも沈んでいくようだった。

それでも想次郎は兄貴としての威厳なのか、自分を鼓舞しているのか意識して歩調を戻そうとしている様に時おり早足になっていた、

色んな家庭の墓石を通りすぎる。

よく整備されて供え物が取り替えられているもの。

雑草が自由に生えて、長らく遺族は顔を見せていないと思われるもの。

二人の両親の墓はその中でもよく手入れがされている様に見えた。

「どら娘とどら息子がお見えだよ」

叔母は慣れた手つきで、墓石の回りに生えた小さな雑草を抜いた。

その動作だけで菜月は整えられた墓を誰が整備していたのかに気づいた。

「……なんだい、この前換えたばかりだってのに、萎れてんじゃないか」

叔母は「仕方ないね」と文句を言いながら供えられていた百合の花の枯れてしまっていた花弁を摘み取り、新しく持ってきた花を沿える。

「京子さんは百合の花が好きだと貴史がよく言ってたからね」

叔母は菜月が自分を見ている意味を察してそう花に向かって言った。

想次郎はゆっくりと墓石の前に正座をした。

そして水を掬って、優しくかけていく。

「父さん、母さん。

七年前に居なくなった一樹がようやくあなた達の元へ行きました。少し叱ってから仲良くやってください」

微笑みながらそう言って想次郎はゆっくりと立ち上がる。

そして菜月の肩にぽんと手を置いた。

「……想兄?」

想次郎は菜月の肩をぽんと無言で叩き、二人に背を向けるようにして墓地の裏の竹藪を見つめている。

菜月はそんな想次郎の様子が気になりながらも、墓石の前に膝をついて手を合わせた。

「…………」

何を考えていたわけでもない。

頭の中で報告もしたがそれで気持ちが切り替わるわけでもなかった。

菜月はゆっくりと立ち上がる。

「…………行こうか」

そう言ってゆっくりと歩き出す。

想次郎が少し遅れてそれに続き、叔母は最後に再び花を整え水をあげてから三人の眠る墓を後にした。

肌ですら感じるのが難しいほどの弱い風で花がわずかに揺れていた。