掴まれた腕はそのままに。
最後の方はずるずる引きずられるように彼に連れてこられたのは、塾の近くの全国チェーンのドーナツショップ。

藍沢くんは他に目星をつけていた店があるように見えたけど…、


『ドーナツ&パイ 100円セール実施中』

という幟を一瞥した瞬間、彼の足と意思は磁石に引きつけられる金属のようにドーナツショップに向かってった。



「何か食いたいドーナツあるか?」

「あ、じゃあ…、チョコパイ…」

「飲み物は?」

「んー、カフェオレ」


店に入って席を確保するやいなや、藍沢くんはそれだけ聞くと迷いない足取りで、女性客で溢れるドーナツ棚に並んで行った。


その飄々とした背中を見て、ぼんやりさっきの喧嘩を思い返す。


(藍沢くん、細いし、塾でもそんな目立たないし、さっきのはやっぱりカツアゲだったのかな…?
でも、金髪の不良を殴り飛ばしたり、私に殴り掛かった不良に石を投げた時、恐怖感一切なさ気だったしなぁ…。)


そして、今の彼は、手に持ったトングをカチカチ鳴らしたり、心なしかドーナツを吟味する顔は嬉しそう。


「…わっかんないなぁー…」


と、目をこすった時、制服のポケットから無機質なコール音がした。

この音で設定してるのはただ1人だけ。


たまたま私の方を見ていた藍沢くんに電話してくるとジェスチャーで伝え、一旦席を外す。