王子と歌姫


来たのは人気が少ない中庭。

虫が出るとかでないとかで
女どもは近づこうとしない場所だ

ここなら誰も来ないし一人でいられる。


音楽をかけて歌うことにしたのだ。


かけたのはこの曲。

『繰り返し一粒』

「都合良くうつされてた錯覚
意味を失った言葉と自覚
ぽっかり空いたこの穴は二度と
返してと泣き迷った路頭
もういらないの、居られないの
取り替えられない壊れた本のページ
裏も表も綺麗な刺 揺れ動く

ずっと、ずっと続けばいいな
進む先の甘い幻想
ガラス越しの微かな光
絡まって溶ける吐息
深い深い眠りに落ちた
腕の中で描き続けた
これが最後で最初の夢
無くなった私の場所 だって
信じてたんだ本気で
疑うなんて嫌で
離れていくような気がしたんだ だけど
初めから全部嘘 近づいてなんかない
こんなに舞い上がって馬鹿みたい

愛してるそう伝えたのは
釣り上げるための餌ですか?
おもちゃ箱の中詰められて
あきたら捨てられるんですか

フェイント表は特別待遇
ひっくり返せば利己主義態度
代わりはいくらでもいたんだって
気づかれた人形は即退場
戻れないよ、とおざけたいよ
植え付けられた枯れない濁った表紙
死に定められた負のパスワード
染み渡る

芯の傷と赤い涙痕
根から咲いた毒の花びら
詰んでみても限りはなくて
浴びた薬副作用 どうして

嘘でいいことだけは願わずに泣き出した
転がされた姿は本当なの?私
繰り返し一粒 消耗品あつかい
こんなに踊らされて馬鹿みたい

愛してるそう伝えたのは
飼い慣らすための餌ですか?
散々遊んだその後は
捨てることすら忘れるんですか

そんな軽いフレーズなんだね
便利な道具だったんだね
どんなに後悔したって、もう元には戻らない

愛してるそう伝えたのは
釣り上げるための餌でした
中身なんかどうでも良くて
新しいものが欲しかっただけ

愛してるそう伝えたのは
飼い慣らすための餌でした
あなたにとっては遊びでも
私は一生背負い続ける

都合良くうつされてた錯覚
意味を失った言葉と自覚
ぽっかり空いたこの穴は二度と
返してと泣き迷った路頭
焼き付くフィルム 暴れるヴァイナス
暖かい温度がすぐ怖くなるんだ
雲った色間違い探し もう嫌だ

フェイント表は特別待遇
ひっくり返せば利己主義態度
代わりはいくらでもいたんだって
気づかれた人形は即退場
冷たいまま回らなくなった
焦がれ狂い狂った真っ直ぐな曲線
まだ打つ波の扉あけて
さようなら」


歌い終わり、ふぅ…と息をつく


がさっと言う物音と同時に声がした


「悲しい歌歌ってるんだね」


はっと振り向いた視線の先には…





来翔がいた