――ドラマや映画の首吊り死体は嘘っぱち。 梁から下がる“それ”を見た時、彼はうっすらとそう思った。 春の月明かりが窓ガラス越しに広がる部屋で、彼はただ呆然と“それ”を見上げていた。 「うっ……ぷ」 背後で、一緒に“それ”を見上げていた人間が嘔吐し、胃酸の臭いが立ち上る。その、尖った切っ先のような匂いが彼の灰色の視界に色をさした時、彼は、獣のような雄叫びをあげた――。