着いた先は指導室。
2人が付き合っていると宣言されたあの日以来、一度もこの部屋へ来ていない。
教師になった今でも、ココだけは避け続けていた。
「綺麗になったな」
「先生は老けたね」
「もう30代だからな」
「もうそんな歳で将来の相手は見つかってるの?」
冗談ぽく言って後悔する。
結局私は考えないようにしていても、樹を忘れることは出来なかった。
「私ね、知ってるよ?滝川先生と付き合ってたのは嘘だったってこと」
私がこの学校に実習に来た時、滝川先生が教えてくれた。
『増井さん覚えてるかな?私と伊達先生が付き合ってるって噂が流れたことなんだけど』
それは、私が忘れたくても忘れられない話だった。
『もう数年経ったから本当の事話して置きたくて』
「滝川先生、『ヒロ一筋だったこと、増井さんには誤解されたくない』そう言ってた」
きっとヒロさんを忘れなくていいと言った私は特別だったのだろう。
だから、ヒロさんからあっさりと伊達先生に乗り換えたと思われたくなかったのだろう。
「滝川先生はヒロさんに嘘で付き合ってるなんて報告出来ないから正直に話してくれたよ?樹は?」
興奮を鎮めるために一度目を閉じる。


