【短編】ユキと最後のKiss



「笑って、ごめんね。可愛いなあって思っちゃって」

「なっ!?」


悪戯な笑みを浮かべて沈黙を破れば、彼女はほんのり顔を赤くさせて照れている。


「もう! なしなし、今の聞かなかった事にする!」

「ははっ、酷いなあ」


川沿いのたんぼの多い道にいる所為か、夕方とは言え、周りは誰もいない。

静かな場所に風が吹き抜ける音だけが響いた。

まだ暑いとは言え、少し涼しくなった風に秋を感じる。

日中ももう少し、気温が下がるともっといいんだけどな。


「ねえ、聞いてるのー?」


不満そうな彼女の声を聞いてハッとする。


「嗚呼、ごめん。ちょっと聞いてなかった」

「もうっ、ちゃんと聞いてよね。手繋ぎたいって言ったの」


目を反らしつつ、恥ずかしそうにしているのが可愛くていじめたくなる。

でも、そんなことしたら今度こそ叩かれるから、『はいはい』と返事をして、彼女の手を握った。