―――……
――…
「……ここ、ですか?」
「ん。そうだよぉ、ほらほら入って入って」
廉次さんに背中を押され、あたしが足を踏み入れた場所。
そこは一度来た事のある場所。
三國のお屋敷だった。
大きな門構え。
それを超えると、以前とは違って、今日は人の気配に溢れていた。
庭の梅の花も満開を迎えている。
相変わらずキレイに剪定されてる庭に目を奪われていると、木陰に人影が見えた。
え?こっち見てる?
足が止まりかけた時、背後でナギさんが驚いたように声をかけた。
「あれ、郁(いく)?」
郁と呼ばれたその人の影がビクリと震え、恐る恐る顔を覗かせる。
「……トワくんがいるなんて、雨が降るの?」
「うん。俺もビックリしてる」
なんてトワが頷いて、郁くんは木陰から一歩踏み出した。
信じられないと言ったその声は、声変わりしたてのような、ちょっと掠れた声。
真っ黒なストレートの髪がサラリと風で持ち上がり、顔にかかっていた長い前髪をすいた。
わぁ。かわいい子……つぶらな瞳はまるで仔犬のようだ。
「郁も珍しいね。今日も来ないって聞いてたけど」
「うん、そうなんだけど。どうしてもって総司朗(そうじろう)さんが」
男の子だよね?少し気が弱そうな感じの子だなぁ。
そんなことを思ってると、彼の瞳があたしをとらえて、そのアーモンド型の瞳が大きく見開かれた。
……え?
と、その時だった。
玄関が勢いよく開いて、そこから誰かが大きなあくびをしながら現れた。
スラッとした長身。緩いパーマをくしゃりと持ち上げて、ダルそうに歩いて来る。
こ、今度は誰?



