「ひかり……顔が鬼みたいだよ」

 椿が怖々と声を掛けてくる。

「今忙しいの」

「それは、見れば分かるけど……何してるの?」

「勉強」

「オマエ、春に高校卒業したんじゃなかったか?」

 藤が文机を覗き込みながら言う。
 そう、わたしは今年の春に高校を卒業してるし、大学には行っていない。わたしがしているのはーー

「神主になるための勉強してるの!」

 キッと睨むと、藤はそろそろと後ろに下がった。更にその後ろで牡丹が『くわばら、くわばら』と両手をすり合わせている。

「ひかりは、巫女じゃなかったのか?」

 臆せず話しかけてくるのは楓ぐらいか。

「巫女よ?だけど巫女の定年は二十五才だもの。ちょうど二十五才から通信教育で神主の資格が取れるから、事前勉強よ」

「巫女から神子になるわけか」

「そう。ーーどうせ父さんも母さんも、わたしに神社のことぜーんぶ押し付けるつもりなんですもの」

 わたしが鬼のような形相になってしまう理由も、そこにあるわけだ。

「まったく!大体!父さんと母さん二人だけでなんとか切り盛りしてた神社なのよ?それを!わたしが巫女になった途端に旅行なんて行っちゃって!」

「ま、まぁ……ひかりの両親も、たまには息抜きしたかったんだよ」