「こんなことをしなきゃならないほど、不安になるんですか?」
彼女の涙の理由が、彼の動きを止めた。
「え」、と意味を理解出来ていない彼を抱き締めようにも、手錠が騒がしく鳴るだけ。
「手錠しなきゃ、私が逃げるって――あなたから逃げるって、思うんですか。――私は、あなたにこんなことをさせてしまうほど、愛していませんでしたか……」
ぽつぽつと小降りであった涙が、土砂降りに。手錠のけたたましさも混じり、台風でも来たかのようだ。
「なっ、そんな動かしたら、手が……!」
痛むと、すぐさま彼が手錠外せば、自由になった腕で抱き締められる。
無我夢中なのか、胸元で窒息寸前まで彼を抱きすくめ――彼女は言う。


