私はこのことを先輩が病室に来る前、広太と話していて知ってしまった。
しかし、触れてはいけないことだったかもしれない。
私は言ったあとで、すごく後悔した。
先輩は「ああ…」と言って、あからさまに表情を暗くした。
とりあえず話を変えよう。
そう思って声を出そうとすると、先輩が先に話し始めた。
「このくま、母親が死ぬ前にくれた最後のプレゼント。広太にとっては大切なんだ。顔も覚えてない母親との、唯一の思い出だから。」
先輩はいっそう悲しそうに、広太を見つめた。
「すいません、変なこと言って。」
「いや、謝ることない。それより広太のこと、助けてくれてありがとな。治療費とかは……」
広太から私に目線を変えると、怪我を心配そうに見てそう言った。
「あ、いえ。広太が横断歩道にいたことに気づかなかったトラックが、青になって発車したんですけど。一応注意して見ていなかったってことで、治療費はいただきました。」
「あ、そっか。なら、良かったよ。」
