あたしに一歩を踏み出した忠犬。
その忠犬から隠れるようにきーち先輩の後ろに後ずさったあたし。
その時…、さっきまでケタケタと笑っていた太一君が口を開いたんだ。
「…おい。」
低く響いたその声に、忠犬はまるで『待て』と言われた犬のように立ち止まる。
その忠犬の頭部に、ヘニョンと垂れた耳が見える気さえする…。
…やっぱり忠犬は忠犬なんじゃないっ!!
「俺を止めるつもりかっ。柳田っ。」
「止めたつもりはねぇよ。
勝負するなら、…アレでやれよ。」
そう言った太一君は、アレというのがあるだろう方向を顎で示した。
そこにあったアレは、この部屋には不似合い過ぎて異質な存在感を醸し出している。
ゴクリ…と生唾を飲み込んだあたしを見た太一君は、ニヤリと口の端をつり上げて
『アレで勝負しろ。』
と言い出した。
あ…あんなの…
あたしにはっっ
「やった事無いから出来ないよっ!」

