「郁実は、ファンのために活躍して? あたしは二の次でいいよ」





「だけど……さ……」





「結婚なんて、今の郁実には絶対に無理だもん。職を失うようなものだよ。これまで、なんのためにやってきたのかわからない」





「…………」





「だから、形だけでいいから……婚約してって言ったの。口約束だけど、少しは浮気防止になるよね?」





あたしがおどけた口調で言うと、郁実がやっと顔を上げた。





「誰が浮気なんか、するかよ」





「あ、目が真っ赤!」





やっぱり、泣いてたんだ……。





郁実が泣くところなんて見たことがないから、信じられなかったけど……鼻も赤い。
















「目にゴミが入ったんだって……あー、明日絶対目ぇ腫れる。撮影に響くな」





あたしから離れ、ティッシュ片手にボヤいてる。





「大変っ、どうしようあたしのせいで」





「そーだよ、全部お前のせい。責任とれ。明日、朝一で出かけるから」





「……へっ?」





始発で帰れってこと?





キョトンとしていると、ベッドに引きずりこまれた。





「んんっ……、郁実っ……」





「俺を泣かせた罰。今日は寝かせない」





なにがなんだかわからないまま、キスの嵐。





そして、夜は更けていく……。