「いいね。そうしたら、そこの壁にもたれて窓の方を見ていて」




「えっ、それだけ?」




「そうだよ。三沢さんがモデルだと、すごくいい作品が書けそうな気がするんだ。

もちろんモデルは三沢さんだけど、背景は俺の頭の中にある色んなイメージをデザインで表現する」




「へえ……」




言ってることがよくわからないけど、きっとそれが芸術なんだよね。




素人が何を言っても仕方がないから、あたしはただ頷くだけだった。




10分ほど、同じ体勢。



その間草野くんと話をしていたから退屈ではなかったんだけど、立っているだけって結構疲れる。



動きたい衝動にかられてきた頃、




草野くんの、




「少し休憩しようか」




という言葉に、ホッと胸をなでおろした。




よかった……。




もうそろそろ、限界だったんだよね。




「これ、さっき買ってきたんだ」




草野くんが、コーヒーパックを手渡してくれる。




「ありがとう!いくらだった?お金払うね」




「いいよ。また今度おごってよ」




「ホントに?そしたら今度はあたしが買ってくるね。ありがとう」




「うん」




草野くんって優しいなあ……。




落ち着いていて気もきくし、絵の才能もあって完璧だよね。




そんな人がどうしてあたしを?




信じられない…。











冷たいコーヒーで喉を潤し、




またモデルをする時間がやってくる。




窓を見ているあたしの横顔を、草野くんがデッサンしている。




どんな表情で描いているのか見たくて、チラッと草野くんを見ると、




すごく真剣な表情で、腕を動かしていた。