「あー、クソ……やっぱり、放っとけねーじゃん。俺、もうお前残して出かけるとか、できねーよ。どうしてくれんだよ……」



口悪く言うけど、なんだか口調は優しくて。



そっと背中にまわる手に、ほうっとため息が漏れる。



「ストーカーは、郁実が退治してくれたから、もう大丈夫……」



「だけど、また同じよーなヤツが現れるかもしんねーし」



「そんなこと言って、郁実は……今日みたいに、すぐ忘れるんだよね」



あたし、こんな状況でひねくれたことを言ってる場合じゃないのに。



だけど、安心したからか、すごく甘えたい気分になってくる。



自分でも、不思議なんだけど……。








「なにをだよ……俺、なんか忘れたっけ?」



「別に……」



「ハッキリ言えよ。わかんねーから」



強引に上を向かされて、顔がすごく近くなったから、恥ずかしくて目を逸らした。



だけど、郁実の視線をすっごく感じる。



「見ないでよ……」



「言えって」



「……すぐ、忘れるでしょ?郁実は、今、楽しいって思うところに……すぐに、行っちゃう……」



「……え?」



自覚がないの?



だから、そうなんだよ……。



「おじさんが言ってたみたいに、今、楽しければそれでいい。郁実は、そういう人なんだ……」