「言われなくても」


井上くんは鼻でフッと笑うと、あたしから視線を外して、ギターをケースになおした。



「どうして……歌う気になったの?」



「……ああ、色々と世話になったし」



「なにそれ……。もう、出ていくみたいな言い方して。そんな気全然なくて、ずっと居座るつもりでしょ?」



あたしが唇をとがらせて文句を言うと、井上くんがヘラッと笑った。









「俺が世界一有名になったとき、弾き語りしてもらったとか、ちょっと自慢できるだろ?」



「……全然」



「クラスメイトと同居してたって週刊誌に売りこめば、金になるかも」



「なんの話よ!」



「ハハッ。よくあるだろ。芸能人の過去の暴露話」



「って、もう芸能人になったつもり?それに、井上くんと同居してたからって、なんの話題性もないから」



「あーっそ。ったく口の減らない女だな…」



「なによっ!」



キッとにらむと、突然近寄ってきた井上くんに、ふわっと抱きしめられた。



……えっ!?