フォンドボーを温めていた和田さんが手を止め、こっちへ歩いてくる。

「理沙ちゃん? どした?」

私はヒヤヒヤした。

和田さんはプロ意識の塊。

オーナーと言えども仕事の邪魔をすることは許されない。

案の定、和田さんは尚道さんを一瞥し、険しい顔になった。

「オーナー。すんません。そこ、邪魔なんですけど」

尚道さんはそそくさと立ち上がった。

「そ、そうだよね。邪魔だよね。ごめんね」

オーナーとは思えない腰の低さ。

尚道さんは肩を落とし、ノロノロと厨房を出て行った。

間もなく開店だというのに、ギャラリースペースの方へは行かず、スタッフルームに入って行く。

美穂と顔を合わせたくないのだろう。

元気のない後姿が、何だか可愛そうだった。