放課後、私たちの二人以外誰もいない教室。


机を向かい合わせにくっつけて、もう1時間以上もどうでもいいことを喋っていた。


直の低い声が難しい言葉を喋る度、笑うとできる笑窪を見つける度に、好きの気持ちが大きくなっていってる気がする。



あ、この人が好き。って、ふとした瞬間に考え付くのだ。



でもそんな風に恋心を自覚する度、別れてほしい気持ちは募っていくのに、反比例して声に出す勇気は減っていった。



――今日こそ言おうと思っていたのに。


別れて、って。


でも、言えない。……言えない。


だってこんなに好きだから。私、直に嫌われたくないから。


なんてずるいんだろう私って。



どうしたもんか、と自分の短い黒髪を指ですきながら、のほほんと無害そうな笑顔を浮かべる彼から顔をそらした。


気持ちが全部溢れて出ていってしまいそうで、とても怖い。無意味に泣きそうになる。




「どうかした? 春野」


「……ううん、別に」


「そ?」


「うん、……私、そろそろ帰る」


「……ああ、もうそんな時間か」




席を立ち上がり、反転させた机と椅子を元の位置に戻せば、直も手伝ってくれた。