――言おう言おうと思うのに、結局今日も告げられない。


“別れてください”、なんて。










「――欠伸した」




指摘した彼は、真っ向から私を見据え肩を竦めて見せた。




「ごめん、話つまんなかった?」


「……違う、朝から頬の関節がおかしくて。落ち着かないから動かしてただけだよ」


「なんだ、大丈夫?」


「うん、もう平気」




そんなわけがない。


ほんとは私、欠伸した。頬の関節もおかしくないし、直の話はつまらなかった。


学年1の秀才である彼が語る、大昔の偉い人が定説したなんちゃら理論は到底理解できない。ていうか興味もない。


それなのに私の口から吐いて出た適当でいい加減な言い訳を信じたらしい直は、そういえば、と嬉しそうに笑った。




「もし欠伸が出そうになった時は、舌の先で上唇をちょっと舐めるといいらしいよ」


「うそ、止まるの? 欠伸」


「うん」




直はいろんなことを知っている。


どうでもいい雑学は、いったいどこで覚えてきているんだろうといつも疑問に思う。