そして、博人と私は二人で街に出かけた。

…博人は私の手を優しく握りしめて歩く。

…どこから見ても、仲のいいカップルにしか見えない。


「琴美さんは何が必要ですか?」

「たくさんあるけど、私お金を持っていない」

・・・そうだ。博人に連れ去られた時、

鞄を落としてしまった。

だから、財布も携帯も、何一つ持っていない。


「大丈夫ですよ、僕がすべて支払いを済ませますから。

…あ、それから、連絡用に、琴美さんの携帯も買いましょうね」


要るものを揃え、会計する為レジに向かった。

お金を払おうとしたその時、

博人は手を滑らせ、財布を落としてしまった。

中の小銭がばらけ落ちた。

私と博人は急いでそれを拾う。

…すべてを渡したふりをして、

百円玉一枚だけ、そっとポケットにしまった。


会計を済ませ、今度は携帯ショップに。


「博人さん、ちょっと、化粧室に行ってもいい?」

「ああ、どうぞ。僕は待ってますから」

博人の答えに安堵し、私は化粧室の中に入った。

…私がこのデパートを選んだ理由。

それは、この化粧室に備えられた、電話ボックスが、

目的だった。