「うう……」

『やあ、やっと起きた?』

「……おかげさまで」

『それ返事になってないよ』



ティノだけどフリードな龍の声が聞こえる……


だめだ、思考が混乱してる。



「よいしょっと」



わたしは声をかけて無理やり身体を起こす。

そして両腕を伸ばして凝りをほぐした。



『猫みたいだね』

「龍に言われたくない」

『あ、そう。助けてあげた命の恩人にそんなこと言うんだ。地面すれすれでキャッチしてあげたのは誰かな?』

「……たいそうご迷惑をおかけしました。このご恩は忘れません」

『まあ、恩知らずな人じゃなくて良かったよ』




記憶を一部だけ取り戻したわたし。

少なくとも、なぜ頭やカイルさんたちに会ったのかがわかった。




……よく考えたらここ、フリードの頭の上じゃん。胡座をかいて座らないとずり落ちてたな。




『そんじゃ、そろそろ帰れば?向こうはたいへんなことになってるみたいだよー』

「へ?!もしかして戦争が……?」

『もしかしなくてもそうだね』

「は、早く戻らなくちゃ!」

『戻ったところでどうするの?』

「みんなを助けないと」




絶対ケルビンは今火の海で埋もれているはずだ。

そして、それぞれ愛馬に乗って応戦する男たち……

傷だらけで、戦火を駆け巡っているに違いない。




『助けることは不可能じゃないかな?』

「ど、どうして?」

『だって、今君の本体は島の塔の中にあるんだもん。しかも見張りつき』

「み、見張り?」

『君のババアだよ』

「ババアって……まだ若いでしょ」

『いや、クソババアだね。この世界を滅茶苦茶にしてくれちゃったんだからさ。僕は怒ってるんだ』

「クソババア……」




彼女は最低でもアラサーとアラフォーの境目ぐらいだろう。もうババアと言われてしまう歳なのか……




『ねえ、君。あの島ぶっ壊してくれない?』

「ぶっ壊す?」

『あれは装置だから、鍵を刺せば簡単に壊れる仕組みになっているんだ』

「鍵?わたしそんなの持ってないよ?」

『その指にはまってるのが鍵さ。クソババアは意地でもそれを奪おうとするから、死守してね?んじゃ健闘を祈るよ』

「え?ちょちょっと待ってぇぇぇ!!」




わたしはあろうことか、フリードの口の中にずるずると滑らされて、落下してしまった。

鋭い牙と赤い舌。



「きゃあぁぁぁぁ!!!!!────」



わたしの絶叫は口を閉ざされたことによって外界には届かなくなった。




『全く持ってうるさい。けれど、君は希望の星。星屑なんかじゃなくて、本物の恒星だ』



フリードはそう呟くと、バサッと翼を広げて空の彼方へと飛んで行って消えた。