「カノン、紹介するでの。こやつらはカイル君とアルバート君じゃ」

「はじめまして、カノンちゃん」

「は、はじめまして……おにいちゃんたち」

「……」




これは、初めて二人に会ったときかな?

頭が紹介してくれているけど、わたしはしっかりと隣にいる幼いケヴィさんの手を握っている。

アルさんはわたしと目線を合わせて言ってくれたから好感度は持てたけど、カイルさんは相変わらずの涼しい顔をしているから、なんだか近寄り難い。




「カイル君は王になるのじゃよ、カノン」

「おうさま?」

「そうじゃ。王様じゃ。大人になったらこんな風に会えなくなるからの、今のうちに仲良くしておくと、良いことがあるかもしれぬぞ?」

「いいこと?」

「頭、変なことカノンに教えないでください」




ケヴィさんの不機嫌な声が隣から聞こえてきた。その顔は今とさほど変わらなかった。

……眉間にしわ寄ってるよ。




「おお、そうじゃな。まだまだ先のことでの」

「ちっ……」

「カイル!舌打ちなんかしちゃダメだよ」


相当つまらないのか、カイルさんは舌打ちをした。

アルさんに注意されている。


……それにしても大人びてるな、三人とも。


これが6歳か。将来が楽しみだ……ってもう知ってるか。




「カノンは4歳じゃから、君たちよりも2歳年下じゃな。泣かすでないぞ?わしはこれから仕事をやらなければならないでの。ケヴィ、面倒を見てやってくれ」

「わかりました」



頭は小屋の中に姿を消した。



「おまえら背が高いな」



この第一声はケヴィさん。しっかりとわたしの手を握っている。



「おまえもな」

「6歳にはまず見られない」

「言葉遣いの面でもそうなんだろうな」

「だから、なんでもできると思って仕事を押し付けられる。しかも枝みたいだ、とか言われてな」

「俺たちは貴族だからな、すでに大人になる勉強をさせられている」

「おかげで肩凝っちゃって……」



アルさんは肩をわざとらしく回した。


……なんなんだこの会話。6歳が話す内容じゃないぞ?しかも当たり障りのない内容だし。




「……何が言いたいんだおまえら」




ケヴィさんが声色を少し低くして言った。



「わからないのか?俺たちとおまえらは、身分が違うってことだ」

「ハッ!何言っていやがる。ただの子供じゃないか。そんな偉そうにすんな!」

「おまえだって子供だろうが!」



……あ~あ、始まった。どうやらケヴィさんも初対面らしい。


取っ組み合いをしている。けれど、アルさんは止めようとしない。

余裕の笑みさえ醸し出している。今だったら止めに入るんだけどな。


そんな二人を困惑した表情でわたしは見ていた。



ケヴィさんが右拳を振り上げたとき、その手に炎がまとわりついた。


「やべっ!」


咄嗟に飛び退いたケヴィさんは、右手を押さえて炎を消そうとしている。



カイルさんはそんなケヴィさんを睨み付けていたが、やがて近づいた。



「来るなよ!」

「……」



ケヴィさんはそう言い放つけれど、炎が出てしまってその顔はかなり焦っていた。


カイルさんが炎に手を当てた。



「止めろ!火傷するぞ!」

「……こんなもの、熱くねぇ」



ぺしっとケヴィさんの右手を叩くと、炎はたちまち消えてしまった。



「な、なんで……」

「おまえは相当焦っていたが、ただの子供の術だ。まだ扱えていないのに熱い炎を出せるわけないだろう」

「……じゃあ、おまえは水を操れるのか?」

「いや、できない。アルバートもまだ無理だ。そのために俺たちはここに来た」

「そのため……?」




険悪ムードはすっかり無くなっていた。

ケヴィさんは呆気にとられたようななんとも言えない顔をしている。

きっと今まで熱い炎が出ていると思っていたのだろう。しかし、その思い込みが生意気なカイルさんによって覆されたのだ。




「つまり、僕たちはおじいさんに力のコントロールを教えてもらおうと思って、ここに来たんだ」

「だが、頭は能力者ではないはずだが……」



そう、頭の瞳は黒。力は使えない。




「俺の母さんは頭に力の使い方を教わったと言っていた」

「亀の甲より年の功だよ。力は経験よりも、精神の在り方の方に影響されるってこと」

「心構えが基本だ。そんなに焦っては使える力も使い物にならないぞ」

「……なるほど、さすが貴族様だな」



ケヴィさんは満足そうに笑うとそう言った。



「修行をしに来たんだろ?要するに」

「そうだ」

「なら、俺も付き合う」

「……せいぜい死なないこったな」

「いくら僕たちが子供とは言え、人を殺すことができるからね」

「これからよろしくな、カイル、アルバート」

「ああ」

「アルって呼んでもいいからね。アルバートじゃ長いでしょ?」

「わかった。俺はケヴィ」



三人はそれぞれ握手をした。



「カノン、おいで。もう怖くないから」



ケヴィさんが笑顔でわたしに手招きをした。

わたしはひょこひょこと歩いて近寄る。


ケヴィさんの元までたどり着いたら、頭を撫でられた。



「……」



カイルさんがわたしを見下ろしてきた。

当時のわたしにとって、上から見下ろされるのが苦手だったみたい。

カイルさんを見上げて眉を寄せている。



「……カイル、おまえ視線の高さを合わせるってことを知らないのか?」

「高さを合わせる?」

「おまえはいずれ王になる人間だが、相手の思っていることを察することも大切だ」



ケヴィさんは完全にしゃがんで、アルさんは膝を少し折ってわたしを見ているけれど、カイルさんは完全に突っ立っていた。




「小さい子供にとって、自分よりも背の高いやつはみんな大人なんだ。大人を怖く感じるときがあるだろう?今カノンはおまえを怖いと感じている。少なくとも、話しずらいと思っているだろうな」

「……」




共感できる部分があったのか、カイルさんは不機嫌な顔をしたけれど、渋々腰を下ろした。



「カイル……おにいちゃん」

「そうだよ。で、こっちがアル」

「アル……おにいちゃん」

「二人ともカノンの友達さ」

「ともだち……」

「うん。友達だよ、カノン」

「……」




アルさんは明るい顔をして言ってくれたけれど、カイルさんはまだ素っ気ない。



「じゃあ、あそぼ!」



幼いわたしは少し笑顔をして言ってみた。

遠慮がちになって。




「……はあ、カイル。年下に遠慮なんかさせてどうすんだよ。
いいぞ、遊ぼう。何する?」

「おにごっこ!」

「よし、じゃあカイル鬼な」

「うん、そうしよう!カイル鬼だよ」

「はあ?!ちょ「にげろー!」

「おい!おまえら……」




わたしのにげろーの言葉で走り出す三人。

残されたカイルさんはしばらく頭をがしがしと掻いていたけれど、ニヤリと笑って走り出した。




「おまえら、俺を鬼にしたことを後悔させてやる!」

「わーにげろー」




やっぱり真っ先に狙われるのはわたしで、呑気に走っているわたしに近づいた。

もうちょっとで襟元を掴まれそうになったとき、カイルさんが見事にすっこけた。


わたしはそれに気づかず走っている。間一髪でわたしは巻き込まれずに済んだ。




「はははは!なんだその様は!雪はこんなことにも使えるんだぜ!」




ケヴィさんがカイルさんが倒れている横で雪玉をもてあそんでいる。

ケヴィさんはその雪だまをカイルさんの膝裏に素早く投げ当てたのだ

まさに、足かっくんの原理だ。相当大きな雪玉を当てたのだろう。見事にカイルさんは崩れ落ちた。



カイルさんは無言で立ち上がると、腕を振った。



「うおっ!っぶねぇな。雪飛ばすんじゃねえよ。しかもかなり固く握りしめたやつじゃないか」

「なに?雪合戦に変更?僕も混ぜてよ」

「おお、いいぜ。ほら、さっさと立てよカイル」

「……大乱闘の始まりだ」




それからと言うもの、頭が迎えに来るまで三人は雪合戦をしていた。

わたしは岩影や木の後ろに隠れて、ケヴィさんに雪玉を作ってあげていた。




「ケヴィ!おまえズルいぞ!そいつを使いやがって」

「カノンの雪玉は形がいいから良く飛ぶんだ!悔しかったらもっと仲良くなるんだな!」

「ああ?!」

「んじゃ僕今度からお菓子持って来よー」

「食い物で釣るのか?」

「子供はお菓子が好きなんだよ。カイルもあげたら?」

「カノンを犬や魚と一緒にするんじゃねぇー!」




……考えていることは子供のようですね、みなさん。



でも、楽しそうだな。やっぱり子供は遊んだらもう友達なんだな。

でもまさかあのカイルさんがスッ転ぶとは、笑いのネタになるな。



目が覚めたら、茶化してあげよう─────