俺も元は孤児だった。


いつの日か、頭に拾われたんだ。



「わしと、来るかね?」



頭の黒い瞳と目が合ったとき、この人は強いんだ、と思った。俺もこの人みたいになりたい、とも思った。

それから、俺は頭のもとで働き始めた。確か、俺はまだ6歳だったと思う。



俺はその頃はひょろひょろで、よく木の枝みたいだってみんなによくからかわれた。けれど、それはただからかっているだけであって、バカにされているわけではなかった。


それが俺には嬉しかった。今でも、仲間の温かさは忘れられない。


そのうち、俺と同じ年のガキが二人遊びに来るようになった。


それがカイルとアルバートだ。


二人とも自由にのびのびと育てられているらしかった。ただし、門限があったがな。


俺たち三人は、めでたく幼馴染みになった。


その関係は当時も今も変わりはない。変わったと言えば、普通に顔を会わせられなくなったということぐらいか。身分の差が大きく関係するようになったからな。



俺は12歳頃に、兵に志願した。庭師にも興味はあったが、兵になって頭の顔をたててやりたいと思ったんだ。


毎日訓練に明け暮れた。カイルとアルバートも一緒になってお互いに鍛え合った。

城に勤める者は戦う術を知らないと命とりになる。侍女も護身術ぐらいは、たしなんでいるだろう。



16歳になった頃、俺たちは女を知った。

きっかけはアルバート。ああ見えてもけっこうなやり手だった。

門限はもう流石に無くなって、夜の街にも出るようになったアルバートは、誘われてやったらしい。

アルバートに押されるようにして、俺たちもやり始めた。


もちろん、俺たちは髪を染めたりして、素性を隠した。他の兵もみんなやっていたから、お咎めはなかった。指導者も、人のことは言えなかったんだろう。



あの頃は盛ってたな俺たち。自分で言うのもなんだが、容姿がよかったからな。16に見られることはまずなかった。



そんなこんなで18になった。もうその頃は落ち着いていたよ、流石に。

その頃から、俺に異変が起き始めた。

今まで普通に剣の受け答えができていたのに、急に難しくなってきたんだ。特に右からの攻撃。

原因はすぐにわかった。俺の右耳は聞こえづらくなっていたんだ。

すぐに兵を辞めるように言われた。

戦場でのハンデは命取りだ、って。



俺は納得できないでいたが、カイルと勝負することになった。


「俺に勝てれば訓練を続けろ。負ければ辞めろ」

そういう条件で戦った。もちろん、力もフル活動させて。もともと火は水に弱い。それを狙っていたのかもしれないが、力は俺の方が上だった。


力に気を取られていた俺は、右からのカイルの攻撃に反応できなかった。聞こえていなかったんだ俺は。


俺は負けた。カイルは無言で立ち去った。アルバートも何か言いたそうだったが、カイルの後を追った。


俺はひとり残された。今まで訓練を続けていたのに、無駄になってしまった……


それからは庭師としてまた働き始めた。自分の無力さを忘れるように。


カイルはしばらく音沙汰なかったが、お忍びでたまに会いに来るようになった。

アルバートはカイルとともに出ると城が空っぽになるため二人は別々で来たが、それでも会いに来ることは止めなかった。