「きーたーなーいーよー!!!」



地上に生還してから小一時間ほどが経った。わたしはすぐに掃除に取りかかったが、それはそれは最初は見るも無惨な光景だった。


埃は被ってるし、クサいし、ネズミの死体は転がってるし……それに、Gの死骸も。で、最初は涙目でやっていたけど、換気をしたせいかマシになってきた。

いったん外に出て、被っていた布巾を脱ぎ、マスクの布もとった。



なんてきれいな空気なんだろー



空は快晴で、雲ひとつない。

その奥には、白亜の大きな城。



カイルさんたち、元気かなー?



とか思いながら、雪に足を突っ込んでみる。

わたしの靴跡がボコッとひとつできた。



……でもやっぱり寒っ。掃除してるときは動いているからあんまり感じなかったけど。



わたしがまた掃除をしようと小屋の中に戻りかけると、青い小鳥が小屋の塀に止まった。



「コナー!久しぶりー……あれ?でもまだ1日しか経ってないや。長く感じてるだけだ」

『姫!会いたかったー!』




コナーは今度はわたしの肩に止まった。




「だ、ダメダメダメダメ!クサくなっちゃうよ!」

『えー』




わたしはコナーを手に乗せて、そっと元の位置に戻した。




『姫、元気?楽しい?』

「うん、元気元気。いろんな人がいるから楽しいし」

『そっか。ならいいや。またね、姫!』



コナーはどこかに飛んで行ってしまった。



もっと話したかったなー。でも、まだ掃除終わってないし。



わたしはまた地獄のトイレ掃除を再開した。



床、壁、便器、水道、窓……あとは……



天井なんだけど……届かない。仕方ない、水をかけるだけでいいか……あとはブラシでちょちょい……と。


よし、終わったー!!



ゴミ箱を誰かわからないけど、譲ってもらって、終了ー!



ひゃっほーい!達成感すごーい!



わたしは外に出て雪の上に走り出た。


……はあ、よくやった。自画自賛するぞ!すごい!えらい!きれい!今まで掃除をこんなにハードにやったことないよ!よく耐えた!


しばらくはしゃいでいたけど、だんだん疲れてきて小屋の階段のところに戻って座った。



いやー、お腹すいたなー。いいダイエットになるわー庭師って。



しばらく座ってぼーっとしていたけど、暇だなぁ、と思って小さい雪だるまや雪うさぎを作ってみた。



うん、かわいい。



雪だるまには木の枝で鼻と手を作り、雪うさきにはそこら辺に落ちていた葉っぱで耳を作った。


雪で何かを作るってなんか新鮮だな。都会じゃあまり雪降らなかったし。


ここってセンタル?だっけ?……北のほうにあるみたいな感じに言ってたな。ケルビンっていう国自体は大きいのだろうか。

ここじゃそういう政治的なことは学べないな。本とかないのか。あ、でも読んでる暇ないか。



ふと、この世界についてもっと知りたいと思っている自分かがいることに気がついた。

ここに永遠に住むわけじゃないのに。いつかはもとの世界に戻るんだ!



でも、ここでの暮らしに好感を持っている自分もいる。大自然の中で悠々と暮らすこと。都会じゃたぶん、仕事と子育てに追われて一生を終えるんだろうな、毎日同じことをして。


ここではまた違った人生を歩める。けれど、それでいいんだろうか。お母さんとも、志織とも、野島君ともお別れ。一生会えない。



……よく考えてないと。自分の進路は親や先生が決めるんじゃない、自分が決めるんだ!……って担任がどや顔で言ってたし。


でも、まだこの問題はいいかな。もう少しここに慣れてからまた考えよう。



「おい、昼飯だぞ」

「はーい!」



ケヴィさんに小屋の中から呼ばれて、わたしは立って、地下へと戻るため走った。



雪だるまと雪うさぎがちょこんと、階段の隅に居座っていた。