「ここが頭の部屋だ。道わかるか?案外広いからな、ここは」

「たぶんわかると思いますけど……」

「けど?」

「なんでこんなに暗いんですか……」



そう、廊下は真っ暗だった。お化け屋敷にしか見えない。明かりも火もなにもない。



「そりゃ、火をつけっぱなしにすると危険だし、天井が高めだから電球を変えるのめんどくさいし。で、電球はやめて、夜はきちんと消す、という決まりを作った」

「ケヴィさんは平気なんですか?」

「もともと夜目はきくし、もう慣れたからな」

「これじゃ道順どころか足元もわからないんですけど……」

「仕方ねぇな」



チッとケヴィさんは舌打ちすると、近くにあったのだろう、松明から木を引っ張ってきて火をつけた。

パチパチと音がなっている。



「おお!すごい!火がついた!」

「おまえ、力を見るのは初めてなのか?」

「そ、そうですけど」

「礼儀はなってるのに世間知らず、か……厄介だな」

「何か言いましたか……?」

「いや、なんでもない。道案内頼むぞ」



ケヴィさんはそう言ってわたしに木を渡した。ほんとに燃えてるんだな……と思わず感心してしまった。


わたしたちは歩き出す。途中、立ち止まったりしたけど、なんとか自分の部屋にたどり着けた。



「ありがとうございました」



わたしはぺこりとお辞儀をした。



「ああ。じゃあ、おやすみ」



ケヴィさんが踵を返して歩き出そうとしたので、わたしは呼び止めた。



「あの、お風呂ってどこにありますか?」



一応女の子なのに、食事と一緒でお風呂も全然入っていない。というより一回も入っていないということに今さら気がついた。



「風呂?風呂はそこの突き当たりを曲がってすぐにある。みんなは多分もう入り終わっているんじゃないか?頭も早く出るし」

「ありがとうございました。おやすみなさい」


ケヴィさんはわたしに背を向けて歩きながら手を挙げた。

わたしはそれを見送ってから部屋に入った。松明の火はお風呂に入りに行くときも使いたいから、ドアの横にある松明入れに入れておいた。



ええっと……着替え、着替え……あ、あった。良かったぁ。ちゃんと女物の服だ。下着もあるけどなんか恥ずかしい……ここは誰にも見せちゃダメね。



衣装ダンスの引き出しに服はあった。タオルも持って準備する。


みんなはもういないって言ってたな……今なら入っても平気かな?



わたしは部屋の明かりを消して、廊下に静かに出た。誰にも気づかれたくなかったからだ。

松明を持って風呂場に向かう。


たぶんドライヤー……はあるわけないよね。自然乾燥で我慢するしかない。


脱衣所で服を脱いで、浴場に入った。



けっこう大きい。それにきれいだ。掃除をきっちりとして大事に使っているのだろう。


まず髪と身体を洗って、お湯に浸かった。


やはり少し寒いのだろう、湯気が半端なく漂っている。


それにしてもいい湯加減だ。ちょうどいい。


なんとなく、ゆらゆらと水面に写る自分の顔を眺めていた。

やっぱり紫だ……もう一生この色なのかな。


ふと、わたしは思い付いた。


違う、もともとは紫で、黒は一時的なものなんじゃないか、と。

でも、どうだというのだ。例えそうだとしても、そのことは今の自分には関係ない。



その思いつきは一旦置いといて、今日のことを振り返ってみた。