「……」
わたしはしばらく声を発することができなかった。
「つまり、おぬしは紫姫なのじゃ。それだけが事実であり、変えることはできぬ。わしらも紫姫のことはあまり知らん。忌み事じゃからの。謎が多すぎるでの。
紫姫が実際にいるとは夢にも思っておらんかった」
「わたしが、その、紫姫……」
「そうじゃ。おぬしは紫姫。この世界に少なからず、何かを起こさせてしまう存在じゃ」
わたしっていったいなんなの。この世界に来た理由は?生きている理由は?偶然?それとも必然?じゃあ誰に呼ばれたの?その忌み事の主人公が……
わたしは頭をかかえこんだ。わたしにどうしろっていうの?帰りたい、今すぐ帰りたい……
あの平和な日常に……普通の高校生に……黒い瞳に……
「落胆する気持ちはようわかる。じゃが、質問があったのではないのか?まだ混乱しているうちに聞け。わしも暇ではないでの」
そんなこと言われても……と思ったけど、今ここでしか聞けないかもしれないから、頭をフル回転させて、なんとか絞り出した。
「……わたしはなぜ、王子の正室の部屋に入れられたのですか」
それぐらいしか、今のわたしには思いつかなかった。
「紫姫の話にあったそうじゃ。もし紫姫を丁重に扱わなかった場合、天罰が下ると。紫姫本人がそう申したと言われておる。
じゃから、襲われた国の王は正妻がいたため、側室へ招き入れたのじゃ。それでも天罰が下ったがの」
「……わたしはなぜここに来たのですか?」
「それは、ここが安全じゃからの。地下じゃから、おぬしをあまり見られなくて済む、なおかつ丁重に、じゃ」
そういう意味で聞いたわけではないが、わかっているだろうけど、無視された。
「ここのどこが丁重なんですか?」
「おぬし、ここに不満があるのか?正室はだめ、城もだめ、と言われれば必然的にここしかあるまい。上層部の人間も紫姫を知っておる者はおらん。やむを得ず、アルバート君に王子が教えたそうじゃが。
おぬしは孤児という設定じゃろ?そんな女が正室を使っていいわけがなかろうて」
「……では、なぜ頭は紫姫を知っているのですか?」
「…………」
「頭?」
頭は急に黙りこんでしまった。わたしは顔を上げて頭の顔を覗きこむが、無表情をしていてよく感情がわからない。
「……それはまだ話すには早い。他にはあるかの?」
スルーされてしまった。まあ、急いで知る必要もないか。
「わたしの仕事はどんなことですか?」
「それも長くなるでの。もうネタが尽きたのじゃろう?部屋へ案内するでの」
頭は杖をついてまたしてもさっさと歩いて行ってしまった。
わたし、どうなっちゃうんだろう……
ただそのことだけが、わたしの頭の中でぐるぐると渦巻いていた─────



