あ、またデジャ・ヴだ。



粉雪が舞散り、木という木にぼたっとしたコートをかける。そして、その木が立ち並んだ荒れ地の奥には、白亜の城が空に突き刺さんばかりにそびえ立っている。

その空の色は雪が降っているから薄暗く、白い雪と城を際立たせている。

空と山々の境目ははっきりと見分けることができるけれど、雪山と白い荒れ地の境目はわかりずらく、自分は今何を見ているのかよくわからない。



そんなことを思っていると、右手を暖かくて大きな手で握られた。

その手の皮はしわくちゃで、骨がゴツゴツとした感触を生み出している。


けれど、安心できる手だ。



「そろそろ戻るかの、カノン」



そう言われたわたしは、首を横に振った。


まだ、ダメなの。かえっちゃダメなの。あしあとがきえるまで、ここでまってるの。


わたしがそう言うと、右手を握っている人は、ふぉっふぉっふぉっ……と笑いだした。

その震動がわたしに伝わって来る。



「ちゃんとさよならはしたじゃろ?なにも足跡も見送る必要はない。明日も来るでのぉ」



それでも、わたしはまた首を横に振った。



ちがうの。もうあえないの。わたしはいかなくちゃいけないの。だから、ぜんぶわすれるの。わたしのことも、あそんだことも。

「何を申しておるのじゃ?」

わたしはこのせかいにいてはいけないそんざいなの。またかえってくるけど、またあってしまったらはじめましてだよ?それまでいきてね?

「カノン……何を申して……カノン?カノンとは誰じゃ?なぜわしはここにおる?はて?……」



老人はついさっきまで左手で何かを握っていたことも忘れて、杖をついて小屋へと歩き出した。

老人の隣にいたはずの少女はいつの間にかいなくなっていた。


ただ、城へと続く、雪でほとんど消えてしまった足跡と、老人がついさっき作った足跡、そして、その分岐点には不思議な小さな足跡が二つ、ちょこんと並んで残っていた。


粉雪だけが、この世界で舞っている────