小屋の中は意外にもこじんまりとしていた。つまり、物がほとんどない。必要最低限に、テーブル、椅子、暖炉、そして、いくつかのドア。




「わしらは普段、地下で生活をしておる。地上にもいくつかは部屋はあるが、客室とほとんど使わぬ厨房、物置しかない。
庭師と聞いて、不思議に思わぬかったかの?地上に庭と呼べるものは見当たらぬ。それはそうじゃ、地下に庭があるのじゃからの」




おじいさんはそんなことをベラベラと話しているけど、わたしの耳にはあまり入っては来なかった。



……無性にやる気が出ない。力が入らない。



わたしの足取りは、たぶんふらふらとしているだろう。事実、なんだか足が地についている感じがしなくて、頭がふわふわとしている。



「これ!何をやっておるのじゃ!悪戯をするでない!」



いきなりおじいさんが声を張り上げた。

すると、床の一部がいきなりガタッと音をたてて開いた。




「すみません、知らない人がいるなぁ、と思いまして。もしかしたら頭(かしら)が脅されて道案内をしているんじゃないかと……」

「わしはそんなヘマをするほど年老いてはおらぬわ!さっさと解け!」




床から現れたのは、わたしよりも年下っぽい男の子。髪は黒く、瞳は緑色っぽく見える。




「でも、頭。たぶん、解いたらその子倒れると思います」

「なに?」

「僕が浮かせても抵抗しなかった、いや、できないようでしたし、なんだか足取りもおぼつかないようでした」

「さてはおぬし、風邪でもひいたか?」




おじいさんはわたしに近づいて、わたしの額にその角ばった手をあてた。けれど、その感触はわたしには伝わってこない。




「ふむ、熱はないようじゃの。体調が優れぬのか?そんなことは隠せず申せ。悪化したら元もこもないじゃろうに。ニック、診療室まで運んでくれ」

「わかりました。ベッドに寝かせておきます」

「わしも後から追いかけるでの」




さらにわたしの身体がふわふわしだし、なんだか気持ちよくなってきたため、わたしはいつの間にか夢の世界へと旅立ってしまった……




「やはり、あの子なのかの……」




二人がいなくなった後、ひとり残された老人はぼそっとひとこと漏らした。