……ここでどうやって死ねと?



わたしはそんなことを思いながら、もう一度振り返り、後ろにそびえ立つ城を眺めた。

ここからでも充分に存在を確認することができるほど大きな白亜の城。朝日を受けて白く浮かび上がって見える。



ふと、そこでわたしはデジャ・ヴを見た。



……あれ?この風景どこかで見たことがあるような無いような……



雪の野原、闇に染まりつつまる空、白亜の大きな城、そして、誰かの大きな手。



わたしにとってここは異世界なはず。だけど、初めてなのに、懐かしい。心が満たされていく感じがする。



知らず知らずの内に、わたしの目には涙が滲んできた。



泣いてしまうほど懐かしい。なぜかは自分でもわからない。唐突すぎて、涙の意味に頭も心も追い付いていない。けれど……




「わたしはこの世界を知っている」




ただ、わたしにはそれだけはわかった。初めてなんかじゃない。わたしはこの世界で生まれてこの世界で育った。この大地を踏みしめ、この空気を吸った。ただそれだけがわたしの生きた証拠。生きた証。



しかし、わたしはその事をすっかり忘れてしまっている。こんなにも素晴らしい世界を、美しくたくましい世界を。

わたし自身、まだ、あ……なんとなく知っている、という程度でしか思い出せていないけれど、確かにわたしはこの場所に立ったことがある。




しばらくぼけーっと立っていると、肩を叩かれた。




「小屋に入ってはどうかの?この格好では風邪をひくぞおぬし」




声の主は意外にも小さく、上から見下ろした。




「わしのことをバカにしよったか?今!」

「……いいえ、滅相もありません」



正直今は誰とも話したくないけれど、わたしの立場が云々をルーニー君に言われていたため、仕方なく返事をした。



「……まあ、良い。泣いている者にそこまで追求せぬわ。着いてくるのじゃ、カノンよ」

「……それは誰のことでしょうか?」

「わしの前でしらを切るつもりか。いい度胸をしておるのぉ。なぁに、ちょっくらわしの部屋に招待するだけじゃ。暖かいでのぉ。わしの身体にはこの寒さはちと辛くての」



小さいおじいさんは杖をついて歩き始めた。意外と早い。


わたしは気力を振り絞って、小屋の中に足を踏み入れた。




これが、わたしにとってのスタートラインであり、終わりへの第一歩となる─────