鳥のさえずりが聞こえる……


『起きて……』


なんとなくそう聞こえ、わたしは目を覚ました。



「うう~ん……よく寝ふぁぁぁぁ……」



欠伸も一緒に出てしまう。


周りを見渡してみると、どうやら書斎室のソファーでそのまま寝てしまったようだ。

大きなソファーだから、腰も首も痛くない。


机を見ても、カイルさんはもういなかった。

窓の外を見ると、まだ夜が明ける直前な感じ……



……よ、夜明け前?!



確か寝たのは夕方。それからずっと眠っていたことになる。



確かに眠り姫だわ。寝てばっかり……



わたしはもうすっかり目が覚めてしまった。でもこの部屋から出るな、と言われている。

ここはどこなのだろう?と思い、立って窓を開けた。



……やっぱり肌寒いな。



ついでに外を覗きこむ。けれど、わたしは急いで頭を引っ込めた。



……見なきゃよかったー!



なぜなら、想像以上にこの部屋は高い位置にあったから。下にある木が爪ぐらいの大きさにしか見えなかった。



「はああああ……」



わたしは大きなため息を吐いた。高さで目が眩んでいる。



『おはよう』



どこからかそんな声が聞こえて、わたしはきょろきょろと見回した。



……空耳?そうとう頭が混乱しちゃったのかな。高さで。



わたしがソファーに戻ろうとすると、窓の縁に一羽の小さな青い鳥が止まった。

首をかしげたり、羽をくちばしでつついたりしている。

こんな鳥いたんだなぁ、きれいだなぁ、とわたしは小鳥に目を奪われた。



『おはよう』



また聞こえてきた。けれど、今回はその主がわたしにはわかった。

おはよう、と聞こえる直前、明らかに小鳥はわたしの目を見たのだ。つまり、この小鳥がしゃべっている、と……

しかもくちばしを動かさずにしゃべったわけだから、わたしは驚きを通り越して不思議に思ってしまった。



「ねえ、どうやってしゃべってるの?」



わたしは試しに話しかけてみた。



『頭の中、話してる』



言葉はカタコトだが、言っている意味がなんとなくわかる。



「すごいね、そんなことができるんだ」

『違う、してない。姫が、聞いてる』



わたしの頭の中はクエスチョンマークがたくさん。してない?姫?



『姫、君のこと。姫が、言葉、拾ってる。だから、話せる!』



話せる!と言った後、小鳥はわたしの肩に飛んで来て乗った。



「わたしは姫なの?どうして?」

『姫は、姫』

「……答えになってないけど、まあいっか。けど、わたしにはそんな言葉を拾うなんて力ないよ?動物と話したこともないし」



けれど、そこでわたしははっと気がついた。昨日の話で能力がどうのこうの、瞳の色がどうのこうのと言っていた。もしかしたら、紫色は動物と話せる力があるのかもしれない。

そこまで考えて、わたしは嬉しくなった。


元々わたしは動物が好きで、猫とか犬に話しかけてしまう癖があった。もちろん無視されてしまっていたけど……

こんな機会は滅多にない!



『名前、つけて?』

「名前?」

『うん。僕の名前』

「うーん……そうだなぁ……コリーは合ってないね。それは近所のあの犬の名前だからね。ええっと……コ、コ、コ、コナー!コナーが良いよ!」



ただ単純にコアー、コカー、コサー、コナーとつけていった結果だ。もっと相応しい名前があるだろうけど、わたしにはしっくりするなと思った。



『コナー!僕は、コナー!姫、ありがとう!』

「ふふふ……どういたしまして」



小鳥改めコナーは、そう言いながらわたしの上を旋回し始めた。



『僕、姫の友達?』

「え?友達?当たり前じゃん!わたしとコナーは友達!」

『やったー!』
『やったー!』
『やったー!』



……え?声がたくさん聞こえる。

とわたしが思った矢先、窓からさらに二羽青い小鳥が入ってきて、わたしの肩に止まった。



「ど、どうなってるの?」

『僕はみんな、同じ。同じ仲間。だからみんなコナー!』
『僕はコナー!』
『僕もコナー!』



何か大変なことになっているのかもしれない……でも、この世界でできた友達。大事にしたいし、仲良くしたい。

飛び回っていた最初のコナーはわたしの頭の上に乗った。……なんだかむずむずする。



『あ、ずるい!僕もー!』
『僕も~!』



同じ鳥でも、少し口調が違うようだ。

けれど、わたしの頭にそんなに鳥が乗れるはずもなく、喧嘩しだした。



『僕が最初!僕のー!』
『僕のー!』
『僕の~!』



ピーチクパーチク頭の上から聞こえる。



「ほら、喧嘩しない。喧嘩するんだったら頭は禁止ね!ほら、わたしの手に乗ってもいいから」



わたしは両てのひらを広げて、頭の上にあげた。



『僕こっち』
『僕は頭』
『僕はあっち』



うまく別れたようだ。



『姫、優しい』
『優しい!』
『大好き!』



改めて、手に乗った小さな友達を見てみる。

ほんと、可愛い!このくりくりのお目めとか、この癖毛っぽい羽毛!さらにこの小ささ!この動作!



わたしの心をドストライクに射ぬいた。



「これから、よろしくね!コナー」

『よろしく、姫!』
『いつでも呼んでね、姫!』
『大好き、姫!ばいばい!』



そう言うと、小鳥三兄弟(?)は窓の外へと飛んでいってしまった。

わたしは手を振って見送った。



小鳥たちが飛んでいった空は、もう夜明けが過ぎ、明るい太陽がのんきに雪山から顔を出していた。



これからわたしに、怒涛の毎日が訪れることを知らずに─────