わーわーと遠くで聞こえて来る歓声。

俺はシリウスと共にここにいる。


師匠の隣にできた石碑。仲良くそこで見守っているんだな。俺の勇姿を見てくれよ!



赤ワインと焼酎、さらに白い花二本。



本当はおまえにも参加してもらいたかったが、遅くなってしまった、すまない。できあがるまでに1年かかってしまった。

1ヶ月前からここにいるおまえ。


師匠の隣にしてやろうと思って、ここだけは空けておいたんだ、感謝しろよ。


そろそろ時間だ。絶対に勝って来る!



俺はシリウスに跨がり走らせる。行き先は闘技場。センタルの中心に作った大きな建物だ。

まさか開催国がケルビンになるとは思っていなかったが、平和記念としてここに建てられた。

リチリアとケルビンの和平を確実なものとした証拠でもある。



俺の背にはクレイモア。このよき日に使うにこそ相応しい最高の剣だ。



ブルルル……とシリウスが嘶(いなな)く。こいつも熱気に当てられて紅潮しているのだろう。

もちろん、俺もだが。



闘技場に着くと青い制服に着替え、深呼吸をする。

相手はよく知った人物だ。油断するなよ、俺。



そして、フィールドに一歩を踏み入れた。さらにヒートアップする歓声。

目の前には黒い制服を着た男がひとり。




「カイル殿!まさか決勝戦であなたと戦えるとは!」

「俺もまさかとは思っていた!しかし、あのときの決着、つけるぞ」

「もちろんだ!」



俺はクレイモアを背中から外し構える。

対戦相手……ラセスもあの剣を抜いた。




「やはりおまえもその剣か!」

「当たり前だ!でなければ、いつ使うと言うのだ」

「今日しかねぇな!」




試合開始のゴングが鳴り響く。歓声がゲージを超越し、腹に響く程膨大なものとなる。



ラセスは火の鳥を何羽も出現させた。前よりも大きくなっている。成長したようだ。

しかし、変わったのはおまえだけではないぞ。



俺も水の龍を出現させる。ラセスはそれらを見て目を大きく見開いた。

それはそうだろう、今まで一頭しかいなかった龍が、二頭に増えているのだから。


ラセスはその表情をすぐに戻し、微笑を浮かべている。




ああ、俺も楽しいぞ、ラセス。こんなにもゾクゾクとするものなのだな。

以前は戦いと言えば戦争しか思い浮かばなかった。だが今はどうだ。

競技や闘技、といった言葉が流行し、見事にその概念を覆してしまった。

すべてラセスのおかげだが、本人は誰かに聞いたと言う。誰だと聞いても、思い出せないと答えていた。

この知恵をラセスに与えたやつは、もしかしたら神様かもしれないな。俺は見たことも名前を聞いたこともないが、存在を信じている。





「行くぞ!カイル殿!いや、ケルビン王カイル!」

「ああ、かかってこい!手加減は無用だ!リチリア王ラセス!」




この競技は降参した方の負けだ。根比べと実力勝負。

ラセスはなかなか粘り強そうなやつだからな、短時間で終わらせなければ。




俺はラセスの動きに合わせて駆け出す。







「さあ、大乱闘の始まりだ!」






その様子を見ている女性がひとり。

彼女はなんと、城の屋根の上から眺めている。

片手には二輪の白い花。もう片方は立つために城の先端を掴んでいる。

そして、その背には紫色の大きな翼。




「カイルさんとラセスさん、どっちが勝つかなー」



と、微笑みを携えながらそう呟いた。その横顔はまだ子供っぽさを残す、女性の雰囲気を醸し出した顔に見える。




「あー、もうっ!髪長いから鬱陶しい!だから短い方が好きなのよ!」




風が彼女の髪を流し、顔にへばりつかせる。

花を持っている方の腕を使って取り払う。




「カイルさんの方が優勢だよね。水と火なら水の方が強いし。ケヴィさんの戦いも見てみたかったな……でも、いいか。向こうで会ったし」




なかなか終わらない試合を見ながら、彼女は呑気に欠伸をする。




「ふぁぁぁぁ……長いなあ。カイルさんなら短期戦で終わらせると思ったんだけど。意外と手こずってるんだね。今のうちにシリウス達に会って来ようかな」




彼女がそう言った瞬間、パッと姿が消えた。

その拍子に一枚の羽がひらひらと漂っている。




風に流され、やがて見えなくなった。