「……ねえ、大丈夫?聞いてる?」



アルさんの一言で我にかえった。



「は、はい。聞いています」

「そう?なんだかだんだん浮かない顔をしていたから」

「大丈夫です。ただ、これからどうしようか、と思ってしまって……」

「そっか、帰る家がないんだっけ。困ったね……。城に連れて行くわけにもいかないし」

「いや、連れて行く」

「うん、そうしよっか……って、は?え?なんで?」



アルさんは、ありえない、といった顔をした。そんなアルさんにカイルさんはあからさまに嫌な顔をした。



「何か文句でもあるのか、俺の家来さん」

「いや、だって、女には興味ないって言ってたよね?」

「俺が城に女を連れ帰ったと噂が流れれば、縁談が途絶えるはずだ」

「そうかもしれないけど、いや、さらに過激になってくと思うんだけど……。ってそうじゃなくて、無理でしょ連れて帰るなんて」

「最初に言ったのはおまえだろ?」

「うっ……」



そんなに女、女って連呼してほしくない。まだ17歳なんだからね!



「はああああ……」



アルさんは盛大なため息を吐いた。



「わーかったよ。カイルは変なところで頑固なんだからなぁ。どうなっても知らないからね僕は。やめときなって止めたんだからね」

「どうにかなっても、それはおまえの監督不行き届きになるから俺は関係ない」

「はあ?ちょ、何勝手なこと言ってんの?」

「アルは俺の子守りをするためにいるんだろ?側近として末永く、な」

「……」



アルさんの表情がぴきっとひきつった。カイルさんはそんなアルさんを視界から外して、ぼそっと呟いた。



「……俺が頼れるのはおまえだけだ」



アルさんは急に表情を引き締めて言った。



「……もし、君が間違った道を選んでしまったとしても、僕はどこまででも着いていく。何があろうとね……。
僕はまだいまいち君の頭の中を読み取ることはできないけれど、感じ取ることはできる。君はカノンに何かを感じ取ったんでしょ?それなら僕には否定する権利なんてないよ。
責任は僕にあるけど……僕は自分のためだけに君の前に立ち塞がろうとは思わない」



……とんだ忠誠の誓いみたいなものを見てしまったな、とわたしは思った。



「……それで充分だ。そろそろ出発する」

「なんか辛気くさかったかな?」

「いや、おまえらしかった、アル」

「お褒めに預かり光栄ですカイル王子」

「……あまり調子に乗るな」

「はいはい」



二人は同時に立った。



「んじゃ、行こうか、カノン」

「はい」



わたしは毛布を身にまとって外に出た。



「……さむっ!」

「ありゃ、やっぱり無理?」

「これ使え」

「ひゃっ!」



わたしはいきなり、ばさっと頭に何かを乗せられて変な声を出してしまった。



「これって……カイルさんの上着じゃないですか!風邪ひきますよ!」

「俺は平気だ。おまえよりは頑丈にできている」

「でも、だからって……」

「お言葉に甘えたら?カノン。そのためにここに来ているようなものだから」

「え?どういう意味ですか?」

「じゃあ、なんで身分の高い人がこんな山の中にいると思う?」



確かに、言われてみればそうだ。全然考えていなかった。迷子になった……わけではなさそうだし。



「どこかからの帰り、とかですか?」

「まあ、これから城に帰るわけだけど……。言ってみれば、鍛練のためかな。山籠りってやつだね。
かれこれ1か月近くはこの山にいるかな。ってことで、僕の上着もあげるよ。主君だけ上着なしじゃ、家来の顔がたたないからね」



また、ばさっと頭に被せられた。



「こ、こんなに……ありがとうございます」

「いいっていいって。ところで、馬には乗ったこと……あるわけないか」

「はい……」

「どっちと一緒に乗りたい?」

「え?馬ですか?」

「僕か、カイルか。僕の馬の方が安心だと思うよ?カイルの馬は人を選ぶからね」

「選ぶんですか?」

「シリウスは問題ない。保証する。さっきも平気だったからな」

「え、どこからそんな自信が沸いて来るの?僕のハリーの方が安全だよ?さっきは気を失ってたからだよ」

「……俺は常に安全走行だ。……それにシリウスが見つけ出したようなものだからな」

「ああ、そうだったね」



わたしの頭の上にはクエスチョンマークがたくさん。そんなわたしに気づいたのか、アルさんが説明してくれた。