わたしの髪の毛が……髪の毛が……



銀色の鈴になってる?!しかも2つ。赤い糸で結ばれた小さな鈴。

試しに揺らしてみると、リンリンとかわいらしい音をたてた。




「あ、それわたしの鈴だ!封印に使ったはずなのにまた戻って来たんですね~」



と、のんきに言われたけれども……


それが何を意味しているのかはわからない。



皆さんのも順々に見てみる。


カイルさんは全く一緒のクレイモアを持っている。本当に複製されたみたいに瓜二つ。


ケヴィさんは短剣を持っていた。しかしそんじょそこらの短剣とは明らかに違う。

光沢の感じもさながら、高価そうな感じ。


アルさんはナイフを持っていた。でも食事に使うようなナイフではなく、果物ナイフみたいな感じ。


ラセスさんはわりと普通な剣だった。けれど、柄になにやら模様が彫られていてきらびやかな印象を受ける。




「おまえの短剣は俺のダガーだな。それも封印に使ったやつだ」

「そのナイフは僕の物です。同様に封印に使いました」

「……あっ。俺の剣がない」

「どうやらおまえのは、そのまま封印になったようだな。容姿は変わったのではないか?」

「じゃあ、俺の剣はそのまま封印になってしまったのか……愛着が湧いていたのですが。手放さなければならないのだな……」

「俺もその気持ちはよくわかる。クレイモアを手放さなければならなくなったからな」




どうやら、前に封印に使われた物が再び集められたようだ。

クレイモアが2つと、わたしの鈴、ケヴィさんのダガー、アルさんのナイフ、そしてラセスさんの剣。

これらは封印となり、これから未来永劫その効力を発揮し続ける。


……わたしたちが死んでも、なお。




「準備は整ったな。んじゃ、ここでお別れだ。おまえたちは元の世界に戻れるぜ」

「後ろにある黄金の門を開けば、あなた方の世界へと通じる道に出られます」

「でも、少し寂しいですねぇ……わたしたちはお役ごめんでこの世から去りますから……」

「え、死んでないんですか?」

「死にましたが、魂だけはここに残されている感じなんですよ~」

「つまり、ここから出られなかったというわけだ」




……じゃあ、死んでからずっとここに閉じ込められていたっていうことなの?それじゃ、あんまりじゃない?




「ああ、勘違いしないでください。僕たちはずっと眠りについていて、あなた方がここに来てから目覚めたという感じなので、長い間閉じ込められていたわけではありません」

「だから、これからは安心して眠れるってわけだ。本当の意味で天に召されるっつーわけだな」

「お、お疲れ様でした……」




ついついそんなことを言ってしまったけれど、間違ってはいないと思う。

この封印の儀式は引き継ぎみたいなもので、彼らの代からわたしたちの代へと移り変わったのだ。託されたと言ってもいい。




「この封印たちはどうすればいいのですか?もう山脈は無くなってしまいました」




カイルさんの言う通り、封印を隠して置く最適な場所がない。

地下、とかがいいのかな……でも固まって置くと物騒だし……




「それなら、君たちが肌身離さず、あの地からも離さず保管していればいいだけのことだ」

「俺はあの地に留まらなかったから、山脈にポイッと棄てて旅に出たぜ」

「僕も世界を巡るために、山に置いて行きました」

「わたしたちはあの地にずっと留まっていたから、ずっと手元に保管していましたよ?」

「さすがにクレイモアは持ち歩けないから、この場所に置いて行った。フリードがこの空間を造ってくれたからな」

「え、フリードを知ってるんですか?」




フリードって神様じゃん。王子なのにフラフラとしているカイルさんと同じで、神様なのに人間に顔を出し過ぎているような気がする。




「封印の手立てを教えてくれたのは、フリードだからな。あいつから伝授されて俺たちが封印を造る際に、この空間を使ったんだ。外でやるには危険だったからな」

「だからさっき忠告したんですよ。もし失敗した場合……封印があなたたちを拒んだ場合、何が起こるかわからないって。試練に打ち勝った人でも、心の底に闇があれば拒絶されて死んでしまうかもしれませんから」




……なんか、壮絶……だな。

ということは、死んでしまった人がいたっていうこと?!




「あ、大丈夫ですよ。誰も実験台になってませんから。フリードにそう言われただけです」




やっぱり、記録者は違うなぁ。現実味があって恐ろしい……




「さて、戻るんだ。おまえたちの世界とこの空間の時間の流れはまったく違う。恐らくこの空間の方が早いだろうが、気を付けろ」

「はい。わかりました。では、俺たちはこれで」

「ああ、ケルビンを頼んだぞ。カイル王子。君は大事な歴史をこれから刻むことになるだろう。しかし、王になることを恐れるな。前を向け。困難が待ち受けているだろうが、パートナーと共に乗り越えるんだ」




そう言うと、──ケルビンの初代王は初代王妃に微笑みを向けた。王妃もまた、ふんわりと笑みを返す。




「おーおー相変わらず熱いねぇお二人さんは。火傷する前にさっさと出た方がいいぞぉ」

「……なんとなく、カイルさんの両親に似てますね」

「……一緒にするのもどうかと思うが、同感だ」




こそこそとカイルさんとしゃべると、ラセスさんに、早く行こう、と促された。



また門の前に立つわたしたち。ここからはさらに待ち構えている困難があるだろう。

けれど、恐れるなことなかれ。

仲間がたくさんいるわたしたちに、敵などいない。

無敵なんだ。


わたしは門を出た後、振り返ってみた。



けれど、そこには誰も、クレイモアさえも、なかった。



「……さようなら。安らかに」




前を歩く男たちの背中を追いかけに走り出すと、わたしの鈴がリズム良く跳ねて、音を響かせた───