「見事だな」

「そうですねぇ~。一時はどうなることかと思ってましたよ~」

「やっぱおまえらはデキルやつらだぜ!」

「……無駄な時間が多かったですがね……」




そんな会話が聞こえてきて、目を開けてみる。

そこには、男性3人、女性ひとりの計4人の人がいた。


ひとりめの男性は紺色っぽい髪をしていて、瞳は黒。そしてイケメン。

女性は銀髪のロングで瞳は青。そしてキュート。

二人目の男性は赤茶の癖っ毛で瞳は茶色。そしてイケメン。

三人目の男性は黒髪で黒い瞳。眼鏡をかけている。そしてイケメン。



……誰なんだろう。というよりイケメン率が高い。それに、ここはどこなんだろう。わたしだけではなく、皆さんも不思議そうな顔をしている。

白い空間、ガラス張りの床。

そして、見知らぬ男女。

……封印って、本当にあるのかな?




「俺たちを知らないのか?」

「え!わたしたち英雄として崇められているはずですよね?」

「そのはずだよな?けど反応が薄いぞこいつら」

「……お尋ねしますが、僕たちが誰だかわかりますか?」




わたしたちはお互いに顔を見合わせた。

けれど、ひとりだけ視線が合わなかった。


……その人とは、カイルさん。


ずっと4人を見ている。




「あなたがたは、伝説の4人ですよね?」

「……ぷっ。伝説だってさ。ウケる」

「仕方ないだろう。俺たちは過去の人物なのだからな。
そうだ、俺たちは魔物を討伐し封印した張本人。君の言う伝説の4人だ」

「やはり……」

「あのー、魔物ってなんですか?」

「今地上にうじゃうじゃ気持ち悪りぃのがいるだろ?アレのこったよ」

「えっ!じゃあ……」

「僕たちは、かつてあの者たちを封印した英雄です」




あの、ゾンビみたいな異形の者たちを封印した張本人……

あれらは魔物と呼ばれていたんだ。これからは魔物って呼ぼうかな。



……確か、4人は龍になったとかなんとか言っていなかったっけ?




「……疑問が多いみたいですね~。質問してもいいんですよ?」

「……じゃあ、あの……龍になったと聞いていたんですが」

「まあ、確かに存在はするけどな」

「水月たちと同一人物ということですか?」

「……いいえ。同じようで違います。彼らは僕たちの偽物。記憶から造り出された器です」

「器……?」

「初めは封印の護衛として造られましたが、今では収集のつかなくなった力のよりしろとなっています」

「ええっと……」

「つまりこういうことだよカノン。僕たちは水とか風とか、能力を持っているじゃない?その能力にも指導者というか、監視役が必要になって、暴走をしないように常に見張っている必要があるんだ。
僕たちは僕たち自身で力の制御ができているけれど、人の意志だけじゃ到底制御できないはず。その手助けをしているのが、カノンが会ったっていう龍たちなんだよ」

「すごいですね。側近なだけはありますね。ですから、僕たちは本物の魂。過去を直に体験した記録者です」





じゃあ、水月たちは紫姫が出現した後からあそこにいるのかな?

紫族の、勝手な行いで……

フリードの差し金で……本来あるべきところから外されたんだ。


……責任を感じる。





「自分を卑下する必要はねーよ。おまえひとりの責任じゃねぇんだからな」

「……でも」

「おまえはその尻拭いをするために頑張ってんだろ?それだけで十分じゃねぇかよ。逆に偉いこった、たいしたもんだ。ドンと胸を張ってりゃいいんだ」

「……そう、ですね」

「逆に謝らなければならないのはわたしたちの方ですよ~。血が欲しいだ云々で戦わせてしまって……」

「……いいえ、自分の知らない過去を知ることができて、感謝しています。母親に会えたのですから」

「俺も、親父の本音を聞くことができて良かったです」




ケヴィさんは、お母さんに。

ラセスさんは、お父さんに。

アルさんは……若い(怖い)ときのお母さんに。

カイルさんはまだ詳しく聞いていないけれど、頭に。

わたしは、心の蟠(わだかま)りだったユキミちゃんに。



それぞれ痛みや苦しみがあったけれど、表情は以前よりも晴れている。

まるで、懺悔した後のようだ。

言いたいことを言った後の清々しい気持ち。


今のわたしたちに、影はない。





「ふふふ……本当におもしろいですねぇ。あなたたちを見ていると、昔のことを思い出します」

「……容姿は若いが心は高齢だからな」

「そりゃそうだろ。寿命が来て死んでここにいるんだからな」

「……そろそろ、封印の儀を行いましょう」

「あ、そうか。おまえは早死にだったっけな。病に伏してポックリと……」

「……黙ってくれませんか?耳障りな声を出さないでください」

「はいはい。おお、怖……」




皆さんの知られざる過去を知りたいところだけれど、それは謎のままでいいのかもしれない。

彼らの思い出は、彼らにしかわからないのだから。



紺色の髪の男の人が腕を挙げると、どこからか大きな剣が飛んできて、わたしたちの目の前に突き刺さった。




「これは……クレイモアか」

「ああ、そうだ。今となっては希少価値はないようだが」

「ラセスさん知ってるんですか?」

「ああ……実物を見るのは初めてだ。リチリアが昔、神剣として重宝していた剣だ。使い手がなかなか現れず、棄てられた存在となったが」

「これは俺が使っていた剣だ。封印する際に使用し、今でも封印の効力は失われていない。そして、これが要となる封印の中心だ」

「俺たちのはみんな解かれちまったしな」

「……では、髪を一本抜いて、刃先に当ててください。あ、でも気をつけてくださいね。何が現れるかわかりませんから」

「「「「「は?」」」」」





わたしたちは5人揃って口をへの字に曲げた。

気をつける?何が現れるかわからない?


こちらの方が何を言われているのかわからない。


けれど、彼らの促すような眼差しでその不満は口にできなかった。



……うう……自分で抜くのか。


意を決して髪の毛を引っ張る。

ブチッという音が聞こえたけれど気にしない。


……なんか、複雑な気分。抜いてないし。切れちゃったし。



皆さんも済んだようで、それぞれクレイモアのところに歩み寄る。




「今回は厳重にするために、封印を4つから6つに増やす。二度と、現れないようにな。
これより、封印の複製を開始する」



クレイモアを持っていたという男の人は、大剣の持ち手に手を添えた。

すると、剣の切っ先が光りだす。


わたしたちはまるで手持ち花火の炎を分けるように、髪の毛をそこに当てた。


その髪の毛もまた、光りだす。



驚いたことに、だんだんとその光は形を作り始めた。

そして、光はやがて消滅し、全貌が明らかとなった。